2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K19004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 強誘電体 / ダイナミクス / イオン変位 / イオン伝導 / イオンチャネル / 柔粘性結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
電場 (E)-分極 (P)曲線にヒステリシスを有する強誘電体は、不揮発メモリやスイッチング素子に必要不可欠な材料である。強誘電体の性能はP-E ヒステリシス曲線における残留分極値 (Pr)と抗電場 (Ec)により決定され、より大きなPrとより小さなEcを持つ材料がデバイスの安定駆動と省エネルギー化に有利である。有機強誘電体では、有機合成の手法を用いる事で多様な分極反転メカニズムが設計可能である。本提案では、「イオン輸送+アルキルアミド鎖」の分子設計によりイオン伝導性と強誘電性のハイブリッド化を試み、外部電場によりPrが増幅される「イオンブースト型の有機強誘電体の創製」に挑戦した。イオン変位 (輸送)が可能なイオンチャネル構造を有機合成化学の手法から設計した。これを強誘電性の発現が可能なアルキルアミド鎖を導入した分子系に共存させた。イオンチャネル内のイオン変位は強誘電体のマクロ分極値をブーストすると期待し研究を実施した。 テトラアルキルアミド置換クラウンエーテル誘導体を研究対象とし、分子中心にあるイオンチャネル内にサイズの異なるアルカリ金属イオン (Li+ < Na+ < K+ < Rb+ < Cs+)を導入した。チャネル内におけるイオン運動自由度を設計し、イオン変位による分極制御を試みた。Eの印加によりそのイオンの安定位置に偏りを生じ、新たなイオン分極が発生した。結果、アルキルアミド鎖に由来する強誘電体分極にイオン変位によりブーストされた分極がイオンの種類に応じて観測された。有機材料の小さなPr値を、一時的に増幅し、スイッチング特性を向上させる事に成功した。一方、イオン変位Pionは電場を切る事で徐々に減衰し、本来の強誘電体成分に減衰する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオンチャネル型ハイブリッド有機誘電体を設計し、その分子集合体構造、相転移挙動、誘電応答およびP-Eヒステリシス曲線の評価から、イオン変位の有無及び大きさと残留分極値の大きさに相関があることを確認した。イオンチャネルを形成するクラウンエーテル分子のポアサイズに対して、包接イオンをNa+, K+, Cs+と段階的にサイズを大きくすることで、その運動自由度を制御した。チャネル内におけるイオン変位は、新たな分極を発生させる結果をもたらし、Na+やK+塩の抗電場はCs+塩よりも大きな値を示した。強誘電性とイオン変位の共存による新規なハイブリッド分子性強誘電体の設計は、有機材料に特徴的な分子性材料を提供する。また、 イオン伝導チャンネルを形成可能なテトラアミノジベンゾ18-crown-6 着目し そのカチオン-アニオン塩の作成を試みた。ここでは、新たな付加機能としてプロトン伝導性を考え、リン酸や硫酸塩を作成し、 同時にチャンネル内にNa+またはK+を導入した塩を作製し、その結晶構造とプロトン伝導性の相関を明らかにした。結晶内におけるプロトンの変位は、イオンブーストと同じ効果をもたらすと考えられるが、 同時に、強誘電性の実現とは反する伝導性を生じさせる。一方、結晶内に存在する極性アニオンの温度および電場に応答する変位は、分極反転を実現し、強誘電性を発現させる起源となる。極性アニオンの配列様式は、イオンの種類およびアニオンを変化させることで、一次元チャンネル構造から二次元レイヤー構造まで、多様なネットワークを形成させる。ネットワーク構造の次元性は、プロトン伝導度およびその活性化エネルギーと直接関係する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、クラウンエーテルの均一な積層構造が形成する一次元的なイオン伝導チャネルを用いたイオンブースト構造の設計を行った。イオン変位の次元性の向上は、多様なイオンブースト機構を実現すると期待できる。イオン伝導が可能な分子集合体に、イオンチャンネル構造のほか、柔粘性結晶のような柔らかな分子集合体が、その候補として挙げられる。近年、イオン性の柔粘性結晶中を高い移動度でLi+やNa+イオンが輸送可能であることが示されている。また、柔粘性結晶を用いた有機強誘電体も開発され、多軸性の分極軸を持つ実用化材料として興味を集めている。上記の観点から、柔粘性結晶は、イオン伝導体と強誘電体を両立可能な興味深い分子集合体と考えられる。そこで、今年度は、柔粘性結晶にイオンを添加することで強誘電性とイオンブースト機能の共存に関する検討を試みる。スクシノニトリル(SN)は、柔粘性結晶を形成可能な極性分子であり、外部電場の印加により、その分極方向が反転することで、電場-分極曲線で確認している。その抗電場の値は、結晶材料と比べて非常に小さなものであり、低エネルギーでのスイッチングが可能である。イオンがドープされていない状態における電場応答を元にして、イオンをわずかにドープした場合に生じる電場-分極曲線ヒステリシスの形状変化を比較検討する。その変化量がイオンブーストによる効果と判断されることから、多様なイオン種のドーピングを試みる。イオンサイズに対する分極構造の変化を検討することで、イオン変位と強誘電体における分極反転を相関させた材料の開発を試みる。
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Research Products
(20 results)