2022 Fiscal Year Research-status Report
励起状態分子に作用する光圧の計測に基づく単一ナノ粒子の超高速光力学分光法の開拓
Project/Area Number |
22K19007
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊都 将司 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 光マニピュレーション / 励起状態ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
分子の励起状態寿命は一般に非常に短寿命(フェムト秒からミリ秒)であり,電子励起状態分子の動的な挙動を測定するために,種々の時間分解分光法が用いられる。中でも過渡吸収分光法は,原理的に全ての化学種が検出可能であり,フェムト秒オーダーの非常に高い時間分解能が達成可能であるため,励起状態ダイナミクス解明に非常に強力なツールとして多様な反応系に適用されている。しかし,サンプル入射前後の光強度差を検出する吸収分光法においては,少数分子を対象とした計測は一般に困難である。そこで本研究では,分子が光を吸収することで生ずる力(光圧)の測定によって過渡吸収や誘導放出などの電子励起状態ダイナミクスや多光子吸収断面積を単一粒子レベルで検出する手法開拓を目指し,今年度は,フェムト秒マルチレーザー光捕捉装置の開発とその評価,微粒子に内包された色素分子を対象とした過渡吸収による光圧の検出を主たる目的として研究を実施した。 チタンサファイアレーザーを励起光源とし,その基本波(近赤外)パルス及び第2高調波(可視)パルスを同軸で顕微鏡対物レンズ下に集光する光学系を構築した。機械的1軸ステージを用い,一方のパルスの光路長(すなわち2パルス間のサンプルへの到達時間)を制御可能な構成とした。量子ドットの2光子励起蛍光(基本波),1光子励起蛍光(第2高調波)を共焦点配置で検出し各レーザーの集光スポットサイズを,有機色素の蛍光の自己相関計測からパルス幅を評価した。有機色素を内包させた高分子微粒子の水分散液を調製し試料とした。単一微粒子を近赤外パルスで光捕捉し,励起光である可視パルスを種々の光学遅延を与えて照射し,励起状態の吸収(過渡吸収)の有無により光捕捉された微粒子が光軸上を変移することを,すなわち,過渡吸収に基づく光圧による微粒子のnmスケールの機械的運度を定量測定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度(令和4年度)は,フェムト秒可視レーザーパルスとピコ秒近赤外レーザーパルスを同軸に顕微鏡下に導入し,サンプル面上の同一点に集光する実験系を構築した。サンプル粒子中に存在する色素の励起状態生成には可視パルスを,粒子の光トラップと励起状態分子の励起にはフェムト秒近赤外パルスのパルス幅をピコ秒まで伸長し用いた。可視パルスの光路には光学的遅延を制御するための機械ステージを導入し,試料への両パルス間の到達時間差を制御した。粒子の光トラップ下での並進運動は粒子に内包させた色素の蛍光をワイドフィールド顕微鏡により検出することで追跡した。特にZ軸(光軸)方向のナノメートルスケールの変位検出は通常の結像系では困難であるため,シリンドリカルレンズを結像系に挿入した非点収差イメージング法を利用した。構築した実験系を用いて,近赤外域に過渡吸収を示す分子を内包させた微粒子のZ位置の光学遅延依存性を測定したところ,色素の励起状態寿命に対応したZ変位を検出することに成功した。このように,単一微粒子に内包された比較的少数の分子の励起状態ダイナミクスに対応した微小力学運動(変位)を実測することに成功し,これは微小空間での系の過渡吸収特性と光圧測定とを結びつける重要な研究成果であり,本研究で提案する新たな励起ダイナミクス測定手法の実現に向けて,そのコンセプトの有効性を示すことができたと考えられる。さらに誘導放出に対しても,想定より早く測定データが得られ始めている。これらから「当初の計画以上に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により,本課題の目指す「微粒子の光力学的な測定から微小領域における分子の励起状態ダイナミクスに関する知見取得を可能とする新たな測定手法の開拓」に対して,その有効性を実証(原理検証)することができた。今後は,粒子サイズ依存性や,光強度,波長依存性,異なる分子を用いた場合の応答などに関して実験データを取得し,得られた測定結果の詳細な解析から,検出可能分子数や適用可能条件,時間分解能などを決定し,測定手法としての評価を行う。 さらに,これまでは粒子のZ変位と微小空間の少数分子の励起ダイナミクスとの相関に対して注目し研究を進めてきたが,微粒子の分極率が励起状態分子生成により変化することに着目すれば,Z変位ではなくサンプル(XY)面での粒子の位置の揺らぎの変化を励起状態ダイナミクスと関連させ,その結果を微小空間励起ダイナミクス計測へ展開することも期待できる。そのような新しいアプローチの実験的な評価にも挑戦する。さらに多光子吸収による光圧に基づく微小変位測定から,単一ナノ材料の多光子吸収断面積評価にも取り組む。
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Research Products
(15 results)