2022 Fiscal Year Research-status Report
多孔性分子触媒中でのトンネル効果発現による水素同位体の精密分離
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22K19086
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 美欧 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20619168)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 錯体化学 / フレームワーク触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまでに金属錯体触媒を活用した小分子変換触媒の開発に従事してきた(Nature, 2016, 530, 465; J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 16899; Chem. Sci., 2019, 10, 462等)。特に最近は、触媒活性中心近傍の場(反応場)の戦略的制御による革新的触媒系の創出を精力的に行っている。(Chem. Commun., 2018, 54, 1174; Inorg. Chem., 2021, 60, 12634; Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 5965; Small, 2021, 2006150; Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 5965等)。その中で、分子性金属錯体触媒の自己集積によって構築される多孔性分子触媒材料、「フレームワーク触媒」を独自に開拓した。本材料は、原子レベルで構造・電子状態が規定された細孔中に触媒活性点を自在に導入可能である点で既存の多孔性結晶材料とは一線を画す。この研究成果を礎に、疎水性分子認識場と水素イオン変換触媒サイトとを併せ持つ新規フレームワーク触媒を開発することを目標とした。より具体的には、触媒活性サイトとしてロジウムの二核錯体構造を、分子コネクター部位としてカルボン酸骨格を有する錯体を合成し、得られた錯体の自己集積化を試みた。その結果、このロジウム二核錯体は、水素結合により安定化されたフレームワーク構造へと集積化することが判明した。そこで次に、得られたフレームワーク構造の触媒能を調査したところ、犠牲還元剤ならびに光増感剤の存在下で光水素発生能が進行した。以上より、本年度の成果として、水素結合型フレームワーク触媒の開発を行うことで、光水素発生能を有する触媒材料の開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、結晶性多孔体を用い可視光条件下かつ水溶液中での水素発生反応を促進する触媒システムの構築を目的とした。そのために、水素発生反応を触媒するRh二核錯体ユニットに対し、自己集積化を可能とする水素結合サイトを導入した単結晶性フレームワーク触媒(FC1)の構築を行った。水素結合サイト導入型Rh二核錯体([Rh2(1,4-Hbdc)4])は、べンジル基保護を行ったテレフタル酸とRh2(OAc)4を反応させたのち、脱保護することによって得た。[Rh2(1,4-Hbdc)4]を結晶化により自己集積させ、FC1とした後、各種測定を行い、その構造ならびに反応性を明らかにした。まず、単結晶X線構造解析から、自己集積後の[Rh2(1,4-Hbdc)4]はオープンメタルサイトを維持したまま、フレームワーク構造(FC1)を形成していることを確認した。この際、Rh二核錯体間で非共有結合性相互作用である水素結合によるネットワークを構築していることが見いだされた。本研究室ではこれまでに、触媒活性点と分子間相互作用部位を有する分子性モジュールの非共有結合性相互作用による自己集積化によるフレームワーク構造の構築について研究を行ってきたが、FC1は水素結合によりRh二核錯体を自己集積させた初めての例である。次に、FC1に対して触媒活性の調査を行った。FC1、アスコルビン酸、Ru(bpy)3(BF6)2をそれぞれ触媒、電子供与体、光増感剤として用い水(pH=5.2)の分解を行った結果、反応速度79952 μmolh-1g-1での水素発生が確認された。この値は、結晶性多孔体を分子性光触媒として可視光条件下で水の分解を行った中で最も高いものであった。非多孔性触媒であるRh2(O2CPh)4を用いた場合、反応速度は1192 μmolh-1g-1であり、細孔による反応効率の向上が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究により、水素発生反応を促進可能なフレームワーク触媒を合理的に設計・合成するための手法が一定程度得られたと考えている。そこで、来年度以降は、このフレームワーク触媒の更なる機能化を試み、活性の向上を志向した研究を展開したい。
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Causes of Carryover |
本年度においては、水素発生能を有するフレームワーク触媒を得るために、フレームワーク触媒の開発に必要な錯体(分子性触媒モジュール)を複数種類開発することを計画していた。しかしながら、合成に想定以上に時間を要したため1種類の分子性触媒モジュールのみを合成した。その為、合成に必要な試薬の量が当初計画より減じたため、次年度使用額が発生した。この次年度使用額は、来年度以降に更なる触媒の開発に向けた試薬の購入に充てることを予定している。
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