2022 Fiscal Year Research-status Report
酵母小胞体の形状およびサイズ変化による分泌蛋白質生産能の向上
Project/Area Number |
22K19135
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
木俣 行雄 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60263448)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 小胞体 / オルガネラ / 酵母 / 油脂 / タンパク質分泌 / 小胞体ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
一層の生体膜(リン脂質二重層)で覆われた扁平な袋状のオルガネラである小胞体は、分泌タンパク質や脂質の生合成を司る細胞内区画である。本研究の目的は、酵母細胞において人為的に小胞体のサイズを増加させ、これらの物質の産生量の向上に資することである。そこで本研究では、酵母細胞の小胞体ストレス応答を利用した。小胞体ストレスとは、何らかの外的あるいは内的な要因によって、小胞体の機能が不全を来すことであり、それに対する防衛応答が小胞体ストレス応答である。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいては、小胞体ストレス応答を司るのは転写因子Hac1であり、小胞体ストレスに応じて転写因子Hac1の存在量が増え、小胞体で機能するタンパク質の発現が転写レベルで誘導される。本研究において私は、ハウスキーピング遺伝子のプロモーターの制御下でHac1遺伝子を過剰発現することにより、常に小胞体ストレス応答が引き起こされるS. cerevisiae株を作製した。小胞体局在型GFP発現を発現させて細胞を蛍光顕微鏡にて観察したところ、また、透過型電子顕微鏡での観察により、Hac1過剰発現酵母細胞では、小胞体が伸展し、細胞質中に小胞体が広がってることが分かった。また、Hac1過剰発現酵母細胞では、脂質の合成能が上昇し、油脂が蓄積されている脂肪滴のサイズが有意に増大していることも明らかとなった。また、他種酵母のβカロチン合成遺伝子をS. cerevisiae株に導入すると、S. cerevisiae細胞もβカロチンを合成するが、その産生量もHac1過剰発現により向上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、酵母細胞の小胞体サイズを増大させ、酵母による様々な物質産生に資することを目指している。上述のように、現在までの研究において私は、 Hac1過剰発現により、S. cerevisiaeでは小胞体のサイズが増大し、さまざまな脂質関連分子の合成能が向上することを見出した。よって、次項で示すような課題はあるののの、研究目的の達成に向け、研究は順調に進んでいると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の項目に関して研究を進め、「酵母細胞の小胞体サイズを増大させ、酵母による様々な物質産生に資する」という研究課題に資する知見をさらに深めることを計画している。(1)Hac1過剰発現によりS. cerevisiae細胞の増殖は著しく遅延するので、その表現型を克服したい。そのため、Hac1を過剰発現しつつも、そして、小胞体が伸展しつつも、早い増殖を示す変異体を分離・取得する計画である。(2)Hac1過剰発現細胞では脂質関連分子の合成量が増加していることはこれまでの研究により示すことができたが、今後は、分泌タンパク質の分泌産生量に関して検討したい。実用化を鑑み、ヒト由来抗体やインターフェロン類をモデル分泌タンパク質として用いる計画である。(3)さらなる実用化を鑑み、S. cerevisiae以外の酵母も用い、同様の研究を進めたい。元来のタンパク質分泌量が高いPichia pastorisを対象とした研究については、すでに予備的解析を始めている。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンサーによる全ゲノム解析など、多額の費用が必要となる解析を次年度に持ち越したため
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