2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K19147
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
金 尚宏 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 特任講師 (80822931)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
Keywords | 概日時計 / 温度補償性 / 進化的保存性 / Ca2+シグナリング / CaMKII |
Outline of Annual Research Achievements |
概日時計のメカニズム研究は時計遺伝子の発見を皮切りに1990年代から爆発的に進み、動物や植物においては転写フィードバックループモデルが定着した。一方、シアノバクテリアにおいてはリン酸化時計こそが中心であることが解明され、種によって振動メカニズムは大きく異なると認識された。しかし10年ほど前から、転写ループが機能しない動物細胞でもレドックス等のリズム現象が報告されるなど、全ての生物種で共通する振動体の存在を示唆するデータが相次いでいる。 研究代表者は、哺乳類の概日時計の温度補償性 (時計の発振速度が生理的温度範囲で一定に保たれる性質) の研究の中で、転写ループは、細胞膜のイオン輸送タンパクであるNa+/Ca2+ exchanger (NCX) およびCa2+/Calmodulin protein kinase II (CaMKII)によって強く制御されていることを見出した。また、細胞内Ca2+振動は転写ループが停止している時計遺伝子欠損細胞でも観察されることが分かってきており、Ca2+振動は転写ループの上流振動体として働くコア振動体であることが示唆された。そこで本研究では、まず、非興奮性の細胞においても概日性のCa2+リズムが存在するのか否かを検証するために、培養細胞における概日Ca2+リズムの測定系を構築した。結果として、時計遺伝子Per2の発現ピークに先行するCa2+リズムが培養細胞においても観察されることが分かった。そして、この概日性のCa2+リズムは、Ca2+/cAMP応答配列や転写因子NFAT結合に依存した転写リズムを駆動することが分かった。さらに、600種類のイオンチャネル阻害剤ライブラリを用いて、培養細胞における概日Ca2+リズムの生成に関わる分子種の探索を行ったところ、いくつかのイオンチャネルが概日リズムの生成に重要であることが分かってきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究では、まず、概日時計中枢である視交叉上核におけるCa2+リズム検出に用いられている蛍光プローブGCaMP6sを用いて、培養細胞における概日Ca2+リズムの検出を試みた。その結果、蛍光顕微鏡の視野内にて細胞が動きまわるなどの理由から、顕微鏡を用いたCa2+リズム検出は培養細胞では難しいことが分かった。そこで、培養シャーレ全体から発せられる発光を検出する方法を考え、生物発光プローブを用いて計測を試みたところ、うまく概日性のCa2+リズムを検出することができた。このCa2+リズムは、視交叉上核と同様に、時計遺伝子Per2の発現ピークに先行しており、この位相関係は研究代表者が2014年にCa2+-CaMKIIの時計における役割を報告した際に予測したもの (Kon et al., Genes and Dev, 2014)と完全に一致していた。そこで、現在想定している分子メカニズムは、当初の予想通りであることが分かってきた。さらに、Ca2+/cAMP応答配列や転写因子NFAT結合配列を用いた転写レポーターによっても、Ca2+リズムの位相の確からしさを確認することができた。また、昨年度は当初の研究計画どおり、600種類のイオンチャネル阻害剤ライブラリを用いた培養細胞におけるスクリーニングを完了した。今後は、概日Ca2+リズムの生成に関わる分子種の詳細な解析を進めることで、体内時計の中枢原理に迫る。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究では、培養細胞における概日性のCa2+リズムの生成に関わる分子種を薬理学的および分子生物学的に詳細に検討する。昨年度、600種類のイオンチャネル阻害剤ライブラリを用いた培養細胞における一次スクリーニングは完了したため、本年度はまず、ヒット化合物の作用の再現性の確認試験を行う。その後、ヒット化合物の作用の濃度依存性試験、および再合成品による活性の確認を行う。ヒット化合物のうち、標的が予想しやすいものに関しては、当該イオンチャネルを培養細胞においてsiRNAによりノックダウンし、化合物と似た作用が観察されるかを確認する。これにより、Ca2+リズムを駆動する責任分子種を同定する。 また、概日Ca2+リズムだけでなく、時計遺伝子Per2やBmal1といった転写リズムのレポーターも使用し、ヒット化合物の作用を検証する。薬剤が各時計遺伝子の発現リズムに与える作用と概日Ca2+リズムに与える作用を比較解析することで、細胞において転写リズムとCa2+リズムが連動して機能しているのか否かを判断する。さらに、有望な化合物の標的に関しては、遺伝子改変マウスを作製あるいは入手し、行動リズムの解析を進める。
|
Research Products
(8 results)