2022 Fiscal Year Research-status Report
天然PIECE抱合法による生理活性ペプチドの消化管吸収への挑戦
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22K19157
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
濱野 吉十 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (50372834)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂江 広基 金沢大学, 物質化学系, 助教 (00779895)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | バイオ医薬品 / インスリン / 経口投与 / ポリリジン / 細胞膜透過性ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質/ペプチド医薬は、分子標的への特異性が高いため現代医療において重要不可欠な医薬品である。しかし、腸管吸収性と生化学的安定性が低く、一般的に投与方法は非経口に限られる。そして、細胞膜透過性に乏しく、分子標的が細胞表層あるいは細胞外に限られる。タンパク質/ペプチド医薬の有効な経口投与法が可能になれば、患者の生活の質(QOL)を改善することができるが、消化管吸収を達成するには、胃内部の酸性環境とタンパク質分解酵素による分解に耐え、腸管内にてタンパク質やペプチドの吸収を促進する腸管吸収促進剤の併用が望ましい。当研究室では、先行研究において、ε-ポリ-L-α-リジン(ε-PαL)の高い細胞膜透過性機能を明らかにしており、polycationic isopeptide entering cell (PIECE) と呼んでいる(国内特許7123414号, 国際特許出願PCT/JP2018/31153, Commun. Biol., 5, 1132, 2022)。細胞膜透過性に優れた化合物は腸管吸収促進剤としても利用されることから、本研究では、PIECEの1つであるε-PαLを腸管吸収促進剤として利用し、タンパク質/ペプチド医薬の腸管吸収を狙った創薬モダリティの開発を試みた。 ε-PαLとポリアニオン化合物を用いタンパク質/ペプチドのポリイオンコンプレックスを調製し(PPP-complex)、pH依存的溶解性および生化学的安定性を評価した。モデルタンパク質としてBSAと蛍光タンパク質、モデルペプチドとしてヒトインスリン(HI)を用いPPP-complexを調製した。これらPPP-complexはpH依存的溶解性を示すとともに、不溶化条件では優れた消化酵素耐性を示した。興味深いことに、HI/PPP-complexをマウスに経口投与したところ、優れた血糖値下降作用を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究項目A: ε-PαL /AP-insulin抱合体の物理化学的性質の解析 タンパク質/ペプチド医薬の消化管吸収を達成するために、本研究では、 胃内部の酸性条件下で非水溶性を示し、腸管内の中性または弱アルカリ性条件下で溶解するpH応答溶解性ポリイオンコンプレックスの開発を行った。また、腸管吸収促進剤としてε-PαL、ポリイオンコンプレックス素材としてアニオン性ポリマーであるポリリン酸(PPA)を用いた。そして、タンパク質/ペプチドのモデル化合物として牛血清アルブミン(BSA)とヒトインスリン(HI)を採用し、pH応答溶解性のタンパク質/ペプチド含有ポリイオンコンプレックス(PPP-complex)を形成する諸条件を検討した。その結果、酸性条件下(pH 1.0-2.0)で非水溶性かつ結晶性の高い良好な沈殿物(BSA/ PPP-complex 、HI/PPP-complex)を生成した。さらに、この酸性環境下では消化酵素ペプシンを添加してもBSAおよびHIは分解されることなく、pHを中性・弱アルカリ性で溶解するpH応答溶解性を示した(特許出願済)。 研究項目B: ePL/AP-insulin抱合体の消化管吸収メカニズムの解明 マウスにHI/PPP-complexを経口投与したところ、HI投与量300 IU/kgで有意に血糖値下降作用を確認した(特許出願済)。したがって、PPP-complexは、酸性条件下である胃内環境においてペプシンによる分解を受けることなく通過し、中性・弱アルカリ性条件である小腸・十二指腸において、そのPPP-complexは崩壊し、PIECEであるε-PαLによってHIが腸管吸収されたことを示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究項目A:ε-PαL /AP-insulin抱合体の物理化学的性質の解析 粒子の表面電荷が消化管・経粘膜吸収に重要であることが知られている。そこで、PPP-complexの表面電荷を電気化学的手法で解析する(ゼータ電位解析、液液界面電気化学解析、U字管電気泳動法など)。 研究項目C: 天然PIECE抱合法のその他生理活性ペプチドへの適用 本研究項目を実施しる。HI/PPP-complexは消化管吸収されたと考えられるが、PPP-complex法がその他の生理活性ペプチド医薬にも適用でき、また、消化管吸収されるか不明である。そこで、インスリンと同じく血糖降下作用のあるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1、分子量約3,000)をePL/AP抱合し、得られたePL/AP-GLP-1抱合体をマウスに経口投与後、血糖降下作用を観察する。また同様に、ダプトマイシン(DAP:分子量約1,500)についてもPPP-complex法を適用し、腸管吸収されるか検証する。DAPは、グラム陽性菌特異的なペプチド系抗生物質であり多剤耐性菌にも有効である。しかし、経口投与では消化管中で分解されるため静脈注射剤としてのみ開発されている。そこで、DAP/PPP-complexを調製し、経口投与後にマウスの血中にDAPが移行するかLCMSで確認し、経口用DAPの創製に挑戦する。
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Causes of Carryover |
2022年度は、研究項目Bにおいて、マウスにHI/PPP-complexを経口投与したところ、HI投与量300 IU/kgで有意に血糖値下降作用を確認し、予想以上に優れた研究成果が得られた。そこで、特許出願済に必要な実験に注力したことから、研究項目Aにおいて分担者が行う電気化学的手法にてPPP-complexの表面電荷を測定する実験計画を2023年度に繰り下げた。よって、2022年度に研究分担者が使用する予定であった研究費を2023年度に繰り越した。
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