2022 Fiscal Year Research-status Report
植物感染に侵入器官のメラニン化を必須としない新奇病原糸状菌の発見と定説の再検討
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22K19173
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
入枝 泰樹 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00749244)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 植物-微生物間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
コスモス炭疽病菌C. fioriniae CC1の付着器を介した植物侵入におけるメラニン化非依存性を証明するため、メラニン生合成阻害剤の処理実験に加え、SCD1遺伝子を破壊したメラニン生合成欠損株(アルビノ変異体)を活用した付着器機能の解析を実施した。すでに作出済みであったコスモス炭疽病菌のアルビノ変異体に加え、比較対象とする複数の炭疽病菌(ウリ類炭疽病菌C. orbiculare 104-T、アブラナ科炭疽病菌C. higginsianum Abr1-5、リンゴ炭疽病菌C. siamense MAF1)についてもSCD1遺伝子を破壊することでアルビノ変異体を作出することに成功した。比較解析の結果、コスモス炭疽病菌のアルビノ変異体では、非メラニン化付着器においても膨圧の発生、人工基質(セロファン膜)への侵入能、細胞壁分解酵素への耐性、植物上での正常な付着器の維持能力、宿主コスモスおよびシロイヌナズナ免疫低下株への侵入能の全てが維持されていることが明らかとなった。この結果は、植物への侵入に付着器のメラニン化を必須としない新奇炭疽病菌の存在と、メラニン化、付着器機能、植物侵入に関する炭疽病菌やイネいもち病菌の既存モデルが適用されない場合があることを強く示している。本研究内容は、令和4年度日本植物病理学会関東部会で学生が発表し、学生優秀発表賞を受賞した。 付着器のメラニン化に依存せずに植物に侵入できる新奇炭疽病菌の網羅的探索を並行して進めているが、追加同定していたサクラ炭疽病菌C. nymphaeae PL1-1-b以外にメラニン化非依存性を示す炭疽病菌株の同定には至っていない。コスモス炭疽病菌、サクラ炭疽病菌以外にも同様の特性をもつ炭疽病菌が存在する可能性はあり、引き続き調査を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、非メラニン化付着器から植物に侵入できるコスモス炭疽病菌の付着器機能とメラニン化の関連性解析を実施した。同定したコスモス炭疽病菌のメラニン化非依存性を証明するため、様々な付着器機能(付着器内部の膨圧、人工基質への侵入能、細胞壁分解酵素耐性、植物上の付着器形態)を解析し、従来の炭疽病菌(ウリ類菌、アブラナ科菌、リンゴ菌)と比較した。具体的には、メラニン生合成阻害剤の処理だけでなく、各炭疽病菌のメラニン生合成欠損株(アルビノ変異体)を作出して、非メラニン化条件で各機能が維持されているか各炭疽病菌間で比較した。また、付着器のメラニン化に依存せず植物に侵入する新奇炭疽病菌の網羅的探索を継続している。現在までに、サクラ炭疽病菌をコスモス炭疽病菌と同様に、非メラニン化付着器から植物に侵入できる菌として同定しているが、その他には見つかっておらず、引き続き探索を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度から6年度にかけて、付着器のメラニン化に依存せず植物に侵入する新奇炭疽病菌の網羅的探索を継続する。当研究室保有の炭疽病菌71菌株に加え、農業生物資源ジーンバンクから必要に応じて菌株を入手し、薬剤添加区の壊死斑形成を指標とするスクリーニングによりメラニン化非依存株を選抜する。各菌の宿主植物に加え、侵入抵抗性が低下した多数のシロイヌナズナ変異体も活用する。取得された候補菌株に対しては形質転換系を新たに構築してSCD1遺伝子破壊によりアルビノ変異体を作出し、上記解析を通して付着器機能の維持を調査する。さらに、多種にわたるColletotrichum属菌の系統樹上でメラニン化非依存性と系統進化の関連性に言及する。 さらに、メラニン化に依存しない植物侵入を可能にする病原性候補遺伝子の探索を実施する。コスモス炭疽病菌および上記の網羅的探索により同定するメラニン化非依存型炭疽病菌のゲノムおよびトランスクリプトーム解析を行い、従来菌と比較する。非メラニン化付着器からの植物侵入に特異的な遺伝子を抽出後、当該遺伝子の破壊により病原性への寄与を証明し、新しい感染モデルを提唱する。
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Causes of Carryover |
令和4年度中に論文を発表する予定であったが、追加実験が必要と判断したため執筆せず、執行を予定していた論文掲載の予算を繰り越した。また、コスモス炭疽病菌のゲノム解読を予定していたが、令和5年度以降に実施することにしたため、その費用も繰り越した。
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