2022 Fiscal Year Research-status Report
Creation of science field connecting acoustically aquatic and terrestrial ecosystems
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22K19194
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (90423029)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
先崎 理之 北海道大学, 地球環境科学研究院, 助教 (10845514)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 生物多様性保全 / 河畔林利用 / 昆虫移動 / 音・光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、流水性の水生昆虫の水圏(河川)と陸圏(河畔)間の飛翔移動に着目し、回帰移動方向決定において水生昆虫は河川流水音に依存するとの仮説を検証することを目的とする.本年度は、北海道東部札内川にて集中調査地を設け、以下3つの項目を明らかにした. 第一に、河畔域において羽化トラップを設置し異なる季節でのサンプル回収・分析を行うとともに、既存データの整理を通して羽化タイミングを群集レベルで定量化した.これにより、河川地下間隙域に依存度の高い複数種の昆虫(カワゲラ目やトビケラ目)が個体数で卓越すること、とくにカワゲラ目の一種が羽化開始時と産卵時に該当するタイミングで捕獲数が増加し、河川横断方向の分散と回帰飛行を伴う移動が示唆された.その他の種は河川から遠くに分散する傾向が見られなかった.第二に、微気象条件が飛翔行動へ与える影響を把握する事前調査として、自動記録ロガーを有した観測測器を設置し、風速や湿度といった微気象条件の予備調査を行った.これにより、林内には河川開放空間と比較して特異な環境条件が存在することが示され、飛翔行動の把握に関する環境条件の記録手法としても本機器の利用が現実的であることが明らかになった.第三に、過去に室内防音室で行った、音に対するカワゲラ目に属する特定種(分散・回帰行動を行う前述の種と同一種)の応答に関する室内実験結果を精査した.これにより、5メートル程度の室内空間スケールでは河川音への応答行動は明瞭ではなく、一方で走光性が著しく高いことが示唆された.これらの結果は、河川から河畔域へ向けて横断的に飛翔分散・回帰行動を行う種が存在することを定量的に示すものである.一方、音という環境条件以外に、光にかかわる要因の重要性も示された.飛翔行動を規定する条件として、測定空間スケールの配慮や音以外の環境条件の考慮の必要性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画に従って、測定が実施できている.特に、注目すべき種が特定できたことは大きな成果である.一点、実験開始時期が対象分類群の飛翔行動開始時期よりも後であったため、本研究課題の観点から羽化初期の動態に関する詳細な観測を行っていない.この点は、次年度の測定によりデータ取得し、より頑強な結果を得られるようにする.想定していた実験設備での音に着目した現象検証が困難である可能性が生じている.一方で、顕著な走光性が確認されたので、仮説や実験デザインを微修正することができる.また、微気象測定機器が使用可能であることが確認できたので、この設定を効率的に用いて、河畔林内外において連続的な微気象環境把握が可能となる.
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Strategy for Future Research Activity |
5月末にカワゲラ目に属する特定種(分散・回帰行動を行う前述の種と同一種)が羽化を開始することが明らかになったので、それにタイミングを同期させて、個体を採取して計画どおり音に対する応答を測定する実験を開始する.この際、走光性の強度も把握できるような実験デザインを組む.これにより音と光の相対的重要性が定量化できる.また、野外において色や光にかかわる野外実験を行い、その際に、微気象条件を詳細に測定してその影響程度を把握する.この実験設定を羽化後期まで数回繰り返すとともに、その他種に対しても試行的にこれらの環境要因の影響を把握する予備実験を行う.データがまとまった研究課題については、学会発表・論文発表により成果還元を推進する.
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Causes of Carryover |
実験開始時期が対象分類群の飛翔行動開始時期よりも後であったため、本研究課題の観点から羽化初期の動態に関する詳細な観測を行っていない.この分の観測が次年度に必要であるから、次年度使用額を意図的に残した.次年度の観測に効率的に使用する計画である.
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