2022 Fiscal Year Research-status Report
mRNAホルモンを用いた汎用性・実用性に優れた新しい魚類催熟法の開発
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22K19205
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
森田 哲朗 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10833684)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | mRNAホルモン / 生殖腺刺激ホルモン / 新規催熟法 / 人工mRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
養殖魚の生産効率向上に向けた親魚のより高効率な催熟法の開発が課題である。従来は、親魚へのヒト由来の生殖腺刺激ホルモン(GTH)投与が多く成功を収めてきた一方、GTHは生物種ごとに高い特異性を持ち、HCGが効かない魚種も多い。そこで、魚類の組換えGTHを用いた催熟も検討されてきたが、非常に高価であり実用性が低い。ここで申請者は、人工mRNAを用いれることで、種特異性の問題をクリアしつつ、安価であることも両立した新規の魚類催熟法を確立できると考えた。すなわち、魚類GTHをコードする人工mRNAを親魚に投与し、GTHタンパク質を親魚自身に過剰生産させ、成熟を誘起する戦略である。 2022年度は、哺乳類において最も効果が高いと報告される修飾が施された人工mRNAが魚類にも効果的か否かを検証した。魚種としてはニベを、産生させるタンパク質としては黄体形成ホルモン(LH)を選択した。まず、ニベLHをコードするcDNAを鋳型として人工mRNAを合成した。この際、哺乳類では最も翻訳効率の高い核酸異性体であるN1-メチルシュードウリジンを使用した。得られた人工mRNAを成熟したメスのニベ(体重250g)に20μg/kgの投与量で筋肉注射を行った。この結果、人工mRNAの投与の有無にかかわらず卵成熟は起こらず、血中の性ステロイドホルモン濃度も変動は見られなかった。(エストラジオール17β)を測定したところ、有意な変動は見られなかった。以上のことから、本実験では人工mRNAによる催熟効果が全く見られず、その原因も不明であった。2023年度は、ゼブラフィッシュ等のモデル魚類を用い、GFP等のレポータータンパク質を用いて、人工mRNAの翻訳効率を検証すると同時に、各種修飾の最適化を実施する。2024年度は最適化された修飾を施した人工LH-mRNAを再合成し、ニベやアジ等の養殖対象区における催熟を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度は、マウスやヒトにおいて最も効果が高いと報告される修飾が施された人工mRNAが魚類にも効果的か否かを検証した。魚種としてはニベを、産生させるタンパク質としては黄体形成ホルモン(LH)を選択した。まず、ニベ脳下垂体由来RNAより合成したcDNAより、ニベLHβ鎖およびα鎖のcDNAを単離した。これらcDNAを1本鎖化したscLH-cDNAを鋳型とし、人工mRNAを合成した。この際、核酸としてウリジンの代わりにN1-メチルシュードウリジンを使用し、5'端へのCap1および3'端へのポリA付加を行った。得られた人工mRNAを成熟したメスのニベ(体重250g)3尾に20μg/kgの投与量で筋肉注射を行った。陰性対照として生理食塩水を、陽性対照としてヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG)をそれぞれ3尾ずつに投与した。この結果、HCG投与区は投与後36時間後までに全個体が排卵したのに対し、mRNA投与区、陰性対照区とも卵母細胞には何の変化も起きなかった。また、血中の性ステロイドホルモン(エストラジオール17β)を測定したが、有意な変動は見られなかった。以上のことから本実験では、人工mRNAによる催熟効果が全く見られなかったうえ、どこに律速が存在するのかも不明であった。今回のニベを用いた実験は人工mRNAの設計や投与条件を決め打ちで実施したため、実験データから新たなヒントを得ることもできず「遅れている」とした。攻め手が全く見つかっていない状況であるため、2023年度は、ゼブラフィッシュ等の小型のモデル魚を用い、GFP等レポータータンパク質を用いて人工mRNAの翻訳効率を検証する。この際、キャップ構造や核酸異性体の種類や組合せについても可能な限り比較を実施し、魚類細胞において最もタンパク質産生効率の高い人工mRNAの設計を試みる。そのうえで、改めてより大型な魚類で再検証を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
現状では攻め手が全く見つかっていない状況であるため、2023年度はまず、ゼブラフィッシュ等のより小型の魚類をモデルとして用い、GFP等の検出感度の高いレポータータンパク質をコードする人工mRNAを合成し、当該遺伝子の発現活性を検証する。キャップ構造や核酸異性体はそれぞれ多くの種類が存在し、哺乳類においてはそれぞれ標的タンパク質の産生能力が異なることが知られている。そのため、キャップ構造や核酸異性体は可能な限り多様な種類を比較し、魚類細胞において最もタンパク質産生効率の高い人工mRNAの設計を試みる。2024年度は、最適化された修飾を用いて改めて人工LH-mRNAを合成し、再度ニベ等のより大型な魚類への投与を行う。初年度はメスの排卵誘導を試みたが、2024年度はオスへの投与も実施する。排精しているオスへの投与により、人工mRNA由来のLHが産生されれば精液量の増加や、血中テストステロン濃度の変動により成熟誘導効果を確認できる。特にテストステロンはGTHの効果で大きく増加すると見込まれるため、より明瞭に催熟効果を評価できると期待できる。まずニベにおいて成熟誘導を行い、続いてマアジへの実施も行うことで、養殖対象魚種への本技術の汎用性を検証する。
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Causes of Carryover |
ニベLH配列の取得に予定よりも時間がかかり、ニベの産卵時期の後半に人工mRNAを用いた催熟実験を開始したため、試行回数が少なくなった。2023年度はモデル魚を実施するため、より小回りの利く実験計画および予算使用計画の遂行が可能である。ただし、小型種であるため、1尾あたりの人工mRNA投与量が少なく、実験がスムーズに進行した場合、mRNA合成コストが低く抑えられる可能性がある。その場合は、2024年度に予定している養殖対象種への投与実験において現状予定しているニベやアジ科魚類に加えてサバ科魚類への展開を行うなど、より実践的な実験の実施に予算を多く使用する予定である。
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