2023 Fiscal Year Research-status Report
mRNAホルモンを用いた汎用性・実用性に優れた新しい魚類催熟法の開発
Project/Area Number |
22K19205
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
森田 哲朗 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10833684)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | mRNAホルモン / 生殖腺刺激ホルモン / 新規催熟法 / 人工mRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
養殖魚の生産効率向上に向けた親魚のより高効率な催熟法、すなわち、魚類の生殖腺刺激ホルモン(GTH)をコードする人工mRNAを用いた新手法の開発を目指す。 2022年度は、哺乳類において最も効果が高いと報告される修飾が施された人工mRNAが魚類にも効果的か否かを検証した。当研究室で日常的に継代飼育しているニベをモデルとし、ニベ黄体形成ホルモン(LH)をコードする人工mRNAを作成した。この際、哺乳類で高い翻訳効率が示されている核酸異性体であるN1-メチルシュードウリジン(Ψ)を使用した。得られたニベLH-mRNA(Ψ)を成熟したメスのニベに投与したが、催熟効果が全く見られなかった。 そこで2023年度は、Ψを用いた人工mRNAの魚類細胞における翻訳効率を確認するため、レポーター遺伝子をコードするmRNAを作成し、Ψ利用の有無によって魚類細胞におけるレポータータンパク質の発現効率が変わるか否かを調査した。具体的には、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする配列と魚類組織で恒常的な発現が確認されているヒートショックコグネイト(hsc)遺伝子の3'非翻訳領域(UTR)を持つ人工mRNA「GFP-hsc」を作成した。この際、材料に通常の核酸を用いたGFP-hscと、Ψを含むGFP-hscΨの2種を製作した。これらmRNAを、ゼブラフィッシュ受精卵にマイクロインジェクション法により導入した。導入後1日が経過したゼブラフィッシュ胚を蛍光顕微鏡で観察した結果、GFP-hscΨを導入した胚におけるGFPの蛍光が、GFP-hscを導入した胚よりも顕著に弱く、魚類細胞においてはΨを含むmRNAの翻訳効率が非常に悪いことが示された。 2024年度は、Ψなど核酸異性体による翻訳効率の向上というアプローチから方向性を転換し、mRNAの化学修飾によって翻訳改善を図るアプローチによる実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初高効率での発現を期待していたΨを用いた人工RNAの発現が極めて悪く、方向性を大きく見直す必要が生じたためである。ただし、これまでにΨなどの核酸異性体とは全く異なる方向性によるタンパク質の発現量向上の取組が、無細胞タンパク質発現系などを用いて多くの研究でなされているため、その中でも効果の期待できるアプローチを採用することでタンパク質発現効率の向上を目指す。例えば、ホスホロチオエート結合などによる化学修飾をmRNAの非翻訳領域に施すことで、in vitroにおいて大幅な翻訳効率向上が確認されている。これらmRNAの修飾によって、魚類細胞、且つin vivoでも効果が見られるのかを確認していく予定である。まずは、GFPをコードするmRNAに化学修飾を施した分子をゼブラフィッシュ胚に導入し、一過性発現の確認を行することで修飾の翻訳効率改善効果を確認する。続いて、成熟ホルモンをコードするmRNAに同様の修飾を施したうえで、ニベなどの親魚に投与して催熟効果を確認する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに期待していたアプローチ、すなわちΨなどの核酸異性体を用いる手法では人工mRNAからのタンパク質生産効率を向上することが難しいと分かったので、全く異なるアプローチに変更する。具体的には、in vitroタンパク質発現系においてその効果が確認されている、ホスホロチオエート結合などによる化学修飾をmRNAの非翻訳領域に施すことで、魚類においても大幅な翻訳効率向上が見られるのか否かを検証する。実験方法としてはこれまでの方法を踏襲し、GFPをコードするmRNAに化学修飾を施したものをゼブラフィッシュなどを用いて一過性発現の確認を行ったうえで、成熟ホルモンをコードするmRNAをニベなどの親魚に投与して効果を確認するという流れで実験を行う。
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Causes of Carryover |
実験期間の中盤において現状のアプローチでは当初期待された、効果の高い催熟法の開発に辿り着くのが難しいと判断し、実験を中断したために使用額が減少したためである。 2024年度においては、当初予定とは異なるアプローチ、具体的には人工mRNAの非翻訳領域をホスホロチオエート結合などによる化学修飾を施すことで、翻訳効率の向上、ひいては高効率な魚類の催熟手法の開発を目指す。実施予定である、化学修飾されたmRNAの合成は外部委託が可能であり、新たな試験設備等を必要としないため速やかに実施できる。また、翻訳効率向上の解析は、これまでの手法を踏襲し、ゼブラフィッシュ胚における一過性発現解析を採用する。ここで効果を確認した後、成熟ホルモンをコードする化学修飾された人工mRNAを大量の合成し、ニベ等の海産親魚を用いた催熟実験にトライする。アプローチは異なるものの、人工mRNAを用いた解析実験の手法じたいは変わらないため、2024年度は予定通り予算を消化する見込みである。
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