2023 Fiscal Year Annual Research Report
Function of nitric oxide as a new growth regulator of red tide algae
Project/Area Number |
22K19213
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20334328)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
Keywords | 赤潮 / 一酸化窒素 / 海洋生態系 / 窒素循環 / 植物プランクトン |
Outline of Annual Research Achievements |
一酸化窒素(NO)は、生体内の多様な生理過程におけるシグナル伝達分子としての重要性が認識されているにも関わらず、海洋生態系における生理機能の解明が未着手である。そこで本研究では、NOが海洋植物プランクトンの新規の増殖制御因子になり得るかどうかを検討するために、異なるNO濃度環境における赤潮藻類の培養実験に取り組んだ。 海洋表層において、NOは主に亜硝酸塩の光化学反応によって生成するが、反応性が高く短寿命である。亜硝酸塩濃度が高い沿岸海域では、NOの供給フラックスは日中においてpMレベルとなることから、このようなNO供給を実験室内で再現するために、培養液量可変の反復式流加培養実験システムを新たに構築した。このシステムを用いて、沿岸域で赤潮を形成する代表的な植物プランクトン2種のNO供給に対する増殖応答を調べたところ、増殖抑制作用が認められた。珪藻Skeletonemaおよびラフィド藻Chattonellaの増殖は、それぞれ平均NO供給速度28 pM/sおよび1.4 pM/sでほぼ完全に阻害され、NOに対する感受性の種差が示された。明期におけるNOへの暴露が増殖阻害を引き起こしたことから、光合成系がNOの影響を受けやすいことが示唆された。また、NO供給を停止した後に、引き続き両培養株の増殖をモニタリングしたところ、1~2日以内にNO無添加の対照区の増殖速度とほぼ同じレベルに戻ったことから、NOの阻害効果は一時的なものであると考えられた。これらの結果から、富栄養化した沿岸域において、表層海水中で亜硝酸塩の光化学反応により生成したNOが、植物プランクトンの増殖を抑制する因子の一つとなっている可能性が明らかになった。従って、植物プランクトン群集内の優占種の変化や赤潮の発生・消滅を引き起こすメカニズムを解析する際には、NOの寄与も考慮することが必要である。
|