2022 Fiscal Year Research-status Report
人工知能による地下ダム水質警戒アラートの発信とダムライトアップ
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22K19222
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 一哉 神戸大学, 農学研究科, 教授 (00362765)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 地下ダム / 人工知能 / 機械学習 / 管理技術 / 硝酸態窒素 / 数値解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
地下ダム湖における地下水質の修復には多大な時間とコストを要する.そのため,地下ダム供用中に濃度上昇の可能性を予測できるならば,汚染が顕在化する前に汚染予防対策を実行できる.そこで本研究では,硝酸態窒素の濃度変動の予測と警戒レベルの可視化を人工知能にて実現することに取り組んだ. まずは,宮古島の地下ダム群にて定期的に観測されている13種類の水質データを収集した.人工知能の説明変数には,硝酸態窒素以外の水質項目と計測開始日からの経過日数を設定し,目的変数である予測対象日の硝酸態窒素濃度を観測点ごとに予測するシステムの構築を試みた.各水質項目の観測イベント間の変化量を確率分布として扱い,予測日の未知の説明変数の設定とともに,機械学習させた.機械学習にはExtremely randomized treesを採用し,予測日直前までの観測データ群を学習して硝酸態窒素濃度を予測した.合わせて,過学習対策と精度向上,観測コストの軽減を目的として,説明変数の削減を試みた.説明変数の削減は精度の向上と連動しており,過学習や精度低下を招く変数が含まれていたことが明らかとなった. 次に,地下ダム流域の硝酸態窒素濃度予測に基づき,現状と将来の警戒レベルを色で周知する硝酸アラートを発信する人工知能を開発した.アラートの可視化を目的として,発信色と濃度を仮定し,たとえば,予測濃度に応じ青,黄,赤として,発信物体に現状と将来の予報を可視化できるよう,現状としては,発信マップを作成した.予測日から半年前と1年前までの観測データ群を学習し,流域内の17 箇所の観測点に対してアラート発信したマップの作製を試みた.その結果,半年後予報では,局所的な観測点において硝酸態窒素の将来濃度が大きく見積もられる安全側の予報が見られたものの,上・中流域での予報は実際の結果と概ね一致した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のように,当該年度は,2つの研究テーマを軸として,研究を遂行してきた.機械学習と人工知能の創生では,観測データの収集から学習方法,確率モデルの構築,予測に至る一連の流れを構築することができ,硝酸態窒素濃度の予測に貢献度の高い水質項目を明確にすることができた.また,フィールドスケールにおいて,実用的なアプローチにて硝酸態窒素濃度の長期予測を達成できる可能性を示した.さらに,実サイトでの現状と将来の警戒レベルを色で周知する硝酸アラートを発信するシステムのベースを築くことができた.宮古島島内において,定期的な水質計測を進行しているところであり,さらなる精度の向上とともに,水質変動にかかわる学術的因子の抽出など多岐にわたる項目に対する対応手段の完成度が増している状態にある.以上のことより,総合的に判断すると,おおむね順調に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進の方策としては,初年度の成果をベースとして,下記の3点を軸に研究を進めていく予定である.1点目として,人工知能の精度の向上を図るべく,観測データの継続した収集とともに,季節変動因子を特定する.季節性を学習内容に反映させることによって,突発的な濃度変動を予測可能な幅の広いシステムへ成長させる.2点目は,警戒アラートの方法論を考究することである.実サイトへの実装を視野に入れて,発信方法や場所の精査など,流域管理に貢献しうる方法論に取り組む.3点目として,数値シミュレーションを応用して,施肥量,農作物収量の高位安定,集水井の窒素負荷の三者関係について,農地の汚染ポテンシャルマップとして作成することで,アラート時の迅速な水質修復につなげる.既存の数値シミュレーションモデルをベースとして,確率論の立場により,流域の水質管理に有用となりうる数値モデリングを達成する. いずれの研究テーマについても,これまでの成果を基盤に据えて,さらに発展した成果を上げることが期待でき,合理的・効率的なダム管理に資する成果を創出する.
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