2022 Fiscal Year Research-status Report
人工冬眠誘発の基盤となる哺乳動物に普遍的な低温耐性機構の解明
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22K19243
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀井 有希 岐阜大学, 糖鎖生命コア研究所, 助教 (20888531)
宮脇 慎吾 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70756759)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 冬眠 / 低体温 / 低温ショックタンパク質 / 転写後調節 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬眠中の動物は示す特徴は、ヒトや伴侶動物で再現させることができれば、医療に大きな変革をもたらすと期待される。しかし、冬眠しない動物では25℃以下の低体温になると生じる臓器の傷害が障壁となって、人工冬眠は実現していない。低体温下で臓器・細胞を保護する仕組みを解明できれば、人工冬眠が実現し、冬眠動物の特徴を医療応用する道が拓かれるはずである。 研究代表者は、低温ショックタンパク質(低温で誘導され細胞を保護)の Cold inducible RNA binding protein (CIRP)に着目した研究を推進し、(1)冬眠前には複数の異なるCIRP mRNAが存在するが、冬眠中は機能的なCIRPをコードするmRNAに集約されること、(2)通常時にのみ存在するmRNAはドミナントネガティブな分子(機能的CIRPと拮抗し作用を抑制)をコードする可能性があることを明らかにした。このような成果を背景として、本研究ではゲノム編集技術を用い、冬眠動物で見出されたCIRPの特徴的な発現調節が真に極度の低体温下で臓器傷害を回避する仕組みであることを証明するとともに、冬眠しない動物でも普遍的に機能することを立証することを目的とする。特に、低体温時にCIRPが増加することだけでなく、平常体温時にいくつかのCIRP mRNAが発現していることにも注目する点に特徴がある。すなわち、平常体温時にドミナントネガティブな作用を持つ分子を含めて複数のCIRPアイソフォームが存在しなければ、低体温時にCIRPが増加しても臓器保護効果が発揮されない可能性を追究する。これが事実であれば、単なる機能分子の増加だけではなく、定常状態で維持される環境が特定の機能発現に重要であるという新しい概念が導かれると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、2年間の間に3つの実験を進める計画である。1つ目は、ハムスターの心臓でCIRPをノックダウンし、自発的な冬眠あるいは人為的低体温誘導によりその効果を検討する実験である。2つ目は、CIRPのスプライシングパターンを固定したゲノム編集マウスを作出する実験である。3つ目は、樹立したゲノム編集マウスを用いて、低温耐性能を評価する実験である。 本年度は、ゲノム編集マウスの作成から開始した。これまでの研究から、冬眠前には複数の異なるCIRP mRNAが存在するが、冬眠中は機能的なCIRPをコードするmRNAに集約されること、通常時にのみ存在するmRNAはドミナントネガティブな分子(機能的CIRPと拮抗し作用を抑制)をコードする可能性があることを明らかにしてきた。体外受精で得たマウス受精卵で CIRPのゲノム編集を行い、イントロンをインフレームで欠損して冬眠パターンのみを発現するマウス(冬眠型)と、スプライシング配列(GT-AG)を欠損して冬眠パターンを発現できないマウス(バリアント型)が作製できた。両系統ともに大きな障害を示すことなく成長することが確認できた。 ゲノム編集マウスが作成できたので、3つ目の実験に着手した。絶食下で認められる自発的に低体温(日内休眠)は、両系統で同等に発現した。また、4℃の寒冷環境で飼育した場合も、両系統とも体温を維持できた。一方、麻酔下で冷却することによって強制的に低体温を誘導した場合は、冬眠型は低体温に移行するプロセスで不整脈の発生頻度が少ないこと、心筋に生じる水様性変性が軽微であることがわかった。 このように計画している3つの実験のうち、最も重要な1つを完成させ、もうひとつについて十分な成果をあげているため、順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に予定通り2種類のゲノム編集マウスが作出できたため、2年目はこのマウスを使って、CIRPのスプライシングレベルの調節が低温耐性の基盤となることを証明する。強制的に低体温に誘導した場合に、冬眠型において心臓の障害が軽微であることが明らかになったので、強制低体温を誘発する実験系で精査する。これまでに人為的に低体温にする方法として、(1)ペントバルビタール麻酔後に4℃の環境下で冷却する方法、(2)アデノシンA1受容体作動薬を脳室内投与した後に4℃の環境下で冷却する方法、(3)イソフルラン吸入麻酔下で冷却し、急速に体温を低下させる方法、及び(4)イソフルラン吸入麻酔下で冷却し、体温が30℃付近になった状態で数時間維持した後に10℃以下にまで低下させる方法を開発している。冬眠動物であるハムスターでは、(2)と(4)の方法が、冬眠と同等のスプライシンパターンの変化を誘導することを明らかにしている。このようないくつかの異なる方法で、2種類のゲノム編集マウスを人為的な低体温に誘導し、全身臓器における傷害の発生の関係を調べる。また、傷害を回避できる条件(最低温度、低体温の持続時間等)と体温復帰後の影響も検証する。さらに、誘導した低体温が、冬眠動物の示す特性を保持するか検討する。 初年度に、臓器サンプルの採材のために安楽死の後に解剖したときに、冬眠型の心臓が摘出後も長期間拍動を続けるという事実に遭遇した。これは冬眠様のCIRP発現が心臓に対して保護作用を発揮している証拠となり得る。偶然に遭遇したこの観察をきっかけとして、当初の予定にはない摘出灌流心臓標本を用いた実験を立ち上げる予定である。この実験を追加することにより、CIRPのスプライシングレベルでの調節が低温障害からの保護だけでなく、虚血再環流傷害からの保護としても機能する可能性を検証できる。
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Causes of Carryover |
順調に成果が得られ、その一部を論文として公表できる可能性が出たため、論文の掲載料としての予算を確保したが、追加実験の実施により年度内に使用することには至らなかった。この論文は、2年目に公表できると確信するため、次年度に使用する額とした。
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Research Products
(4 results)