2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K19271
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
茶竹 俊行 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (30383475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 専門業務員 (10354888)
田中 伊知朗 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (20354889)
角南 智子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (50554648)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 水和 / 中性子 / 構造解析 / 蛋白質 / D/Hコントラスト |
Outline of Annual Research Achievements |
蛋白質の周囲には動きの違う水分子が混在している。これは水和水と呼ばれ、蛋白質の構造構築や機能の発現と密接に結びついている。しかしながら、動きが大きい水分子の解析は通常の実験では困難であり、水和水の完全な姿は未だ明らかにされていない。これは、蛋白質の研究における最大の問題の一つである。これを明らかにすることは、水和水の全貌解明に留まらず、様々な応用分野への波及効果が期待される。特に、近年盛んである計算機上での生体分子設計には大きな福音となる。 本研究は、蛋白質を取り囲む水和水の全貌を中性子線によって解明することである。中性子線が持つ最大の利点である軽水素と重水素に対する散乱長の違いを利用して、複数の中性子実験法を駆使して実現する。以下、交付申請書に記載した三つの事項について説明する。 (1)中性子D/Hコントラスト解析: 実空間D/Hコントラストで溶媒領域の中性子散乱長密度図を計算して溶媒密度解析を行う。これにより、動きの大きい水分子も含めた水和水の位置決定が期待される。申請に前後して、研究対象であるリゾチームの蛋白質部分の解析が、最初の解析論文が学術誌に掲載された。22年度はD/Hコントラスト図で水分子の探索を行い、既存の解析を上回る数の水分子を同定して、複数の学会・研究会で報告した。さらに、より詳細な検討を結晶解析と計算科学の両面から進めるための準備を進めている。 (2)低温下での中性子D/Hコントラスト解析: 低温で熱振動を抑制することで、水分子の位置についてより詳細な解析が可能となる。中性子解析に必要な大型結晶の凍結は高圧凍結法を用いる。凍結用の結晶の準備は終了しており、凍結成功後に中性子実験の申請を予定している。 (3)中性子準弾性散乱測定: 予備実験は京大原子炉で終了しており、結晶の大量作成後に中性子実験の申請を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 本研究の根幹である中性子D/Hコントラスト解析は順調に進展した。 本研究における第一の研究対象であるリゾチームについては、申請の採択とほぼ前後して主に蛋白質部分に着目した中性子D/Hコントラスト構造解析の第一報が学術誌に掲載された。この構造はProtein Data Bankにも登録されており、これを基本構造として溶媒密度解析の立案と実施を行った。立案時には、これまで中性子解析に使用したソフトウェアを調査して、結晶解析における溶媒密度解析のアルゴリズムを設計した。これを実施することにより、従来の解析法を大きく上回る水分子候補の検出することに成功した。これは、複数の学会や研究会の報告まで達成できた。また,並行して計算科学解析の検討も行い、次年度に実施可能となっている。 (2) 低温下での中性子D/Hコントラスト解析は、解析自体は(1)で設計したアルゴリズムで実現できるため、中性子実験用の結晶の作成を試みた。低温下での実験のために、大型結晶を高圧凍結法で凍結する必要がある。既存の結晶を高圧凍結用に準備することができた。高圧凍結の実施には、専用の装置 (共同研究者 (田中) が茨城大学で使用可能) を用いる必要がある。このため、実施は次年度以降に行うこととなった。 (3) 中性子準弾性散乱測定は、過去に京都大学の研究原子炉を用いて中性子を用いた予備実験を行っており、過去の文献も含めて検討した結果、実施可能との結論となった。この実験には、結晶解析に用いる程の大型結晶は必要ないが、多くの結晶を準備する必要がある。 本研究で起こった予定外の事象として、大型結晶の作成の再現性の問題がある。これは、確認実験により購入したリゾチームの純度の問題であると判明した。これは結晶準備に支障をきたすため、改善を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画で記載した三つの研究目的について、推進方策を記載する。 (1)中性子D/Hコントラスト解析: これは、予定通り推移している。2022年度はD/Hコントラスト密度を用いた溶媒密度解析を実施した。次年度は予定通り、解析結果の検討を中性子結晶解析と計算科学の両面から進めていく。また、現在解析しているリゾチームの水和構造に加えて、中性子回折データを保有しているリボヌクレアーゼについても、同様の解析を試みていく。 (2) 低温下での中性子D/Hコントラスト解析: 実験に用いるリゾチーム結晶の準備が終了した。次年度は高圧凍結法による結晶凍結を行い、中性子実験の利用申請を行う。また、追加の結晶が必要になった場合に備えて、大型結晶の追加作成を行う。 (3) 中性子準弾性散乱測定: この実験には、ある程度の大きさの結晶を多数準備する必要がある。結晶作成については、次項で述べるように問題が発生した。この問題の解決後に、中性子実験の利用申請を行う。 本研究で起こった予定外の事象として、大型結晶作成の再現性の問題がある。これまでの実験で使用したリゾチーム試料と同じ製品を使用して結晶作成を行ったが、大型の結晶が析出せず、小型の結晶が多数析出する結果になった。再実験による検証の結果、製品のロット間で純度にばらつきがあり、これが大型結晶作成の再現性に悪影響を与えていることが判明した。対策として、(a) 別メーカーの製品を使用、(b) 再結晶化法による純度改善、の二つを進めていく。 (a) については、結晶の大型化に改善があることを確認している。 (b) については、結晶の作成と回収を繰り返す再結晶化法で純度改善を行う。この方法は、既に高純度リゾチームの作成に使用された実績がある。したがって、本問題は解決できると予想される。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: (1) 中性子実験では、結晶の作成において想定外の事象が発生した。本研究前から使用してきた同じメーカーと型番のリゾチーム製品とを使用したが、大型の結晶が析出しなかった。既に作成済み結晶を用いて中性子実験の準備を進めたが、一部の実験は次年度に持ち越すこととなった。 (2) 計算科学では、当初の計画は結晶解析と計算科学を平行して進める予定であった。実際に解析を進めると、結晶解析単独でも良い結果が得られた。そこで、(a) 結晶解析を先行させて、(b) その結果を計算科学で検証して、(c) 結晶解析にフィードバックする、進め方をとって、より良い結果を目指すことにした。 使用計画: (1) 結晶化の再現性の問題は、リゾチーム製品の純度に起因することが判明した。これを解決するために再結晶化法による純度改善や他メーカーのリゾチーム製品の利用の結晶化を行う。また、持ち越された中性子実験の準備も行う。(2) 計算科学では、中性子解析処理後に予定していた計算を行う。
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