2022 Fiscal Year Research-status Report
冬眠哺乳類の季節性身体リモデリングを制御するエピジェネティック機構の解明
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22K19320
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
曽根 正光 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (90599771)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 良文 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10447443)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / 季節適応 / 冬眠 / ハムスター |
Outline of Annual Research Achievements |
繁殖をはじめ自然界に生きる動物の行動は季節と密接に結びついている。哺乳類の冬眠は、冬季に代謝・熱産生を能動的に抑制し消費エネルギーを節約するための典型的な季節性行動である。本研究は、冬眠をモデルとして、哺乳類が長期的な気温や日長などの季節情報を正しく捉え、全身組織を作り変える身体リモデリングを可能とするエピジェネティックな分子基盤を明らかにすることを目的とする。冬眠する哺乳類シリアンハムスター(以下、ハムスター)は、寒冷短日条件で飼育すると、数ヶ月の前冬眠期の間に体を作り変えたのち、冬眠期に入る。冬眠期は10℃以下の低体温で不動状態が数日間持続する深冬眠と、約35℃の体温が半日程続く中途覚醒の繰り返しが数ヶ月続くが、その後は冬眠が自発的に停止し再び発動することのない不応期に入る。この前冬眠期、冬眠期、不応期の変化過程では全身組織で身体リモデリングが生じる。植物には、低温に長期間晒されることで初めて開花が可能となり、温暖な季節に開花することを保証する春化という現象が存在するが、その背後に特定の遺伝子座に温度変化情報がエピゲノム修飾の形で蓄積する機構があることが近年明らかとなった。しかし、哺乳類の季節適応では、エピゲノム修飾が長期間の環境変動に応じてそもそも変化するのか、また変化するとしたらその機構は何か、未だ殆ど不明である。本研究は植物の春化をアナロジーとして、冬眠動物にも季節単位の長期的な環境情報をエピゲノム修飾という形で蓄積する遺伝子座が存在すると想定し、その同定を目指す。本年度においては、少量のハムスター組織を用いた網羅的なヒストン修飾の解析手法を立ち上げた。今後、この手法を、前冬眠期、冬眠期、不応期といった様々な時期のハムスター個体に応用し、ヒストン修飾の季節変化を解析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
季節環境に依存して累積的にエピゲノム修飾が変動する遺伝子座を同定することを目標として、主に遺伝子のプロモーター領域に存在し転写を活性化するH3K4me3と遺伝子領域全体に存在し転写を抑制するH3K27me3という2つのヒストン修飾の解析を試みた。 本年度は、CHIP-seqよりも遥かに少ない細胞数でなおかつ凍結保存した細胞を用いて実験が可能とされるCUT&Tag法を用い、それらのヒストン修飾を網羅的に同定することを目指した。状態の異なる時期(非冬眠期、前冬眠期、冬眠期、不応期)のハムスター個体について解析すること、また、脳の特定領域など微小な組織も対象として解析することから、本研究において、CUT&Tag法を用いることは大きなメリットがある。 本年度は、凍結保存した冬眠期および非冬眠期のハムスター肝細胞を実験対象とした。まず、細胞を単離し、界面活性剤により核を露出させ、上記2種のヒストン修飾それぞれを特異的に認識する一次抗体を結合させた。次に二次抗体およびDNAタグを搭載したTn5トランスポザーゼを順に作用させ、ヒストン修飾部位の近傍にシーケンス用DNAタグを挿入し、シーケンス用ライブラリーを作製した。作製したシーケンス用ライブラリーのDNA断片長を電気泳動により調べると次世代シーケンサー解析に適切な長さのDNA断片が得られていることが確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本年度作製したハムスター肝臓組織由来のCUT&Tagライブラリーを用いて次世代シーケンサー解析を行い、H3K4me3とH3K27me3ヒストン修飾を問題なく解析できているかについて確認を行う。具体的には、一般的にH3K4me3とH3K27me3のシグナル強度は逆相関することが知られているので、そうした関係性が示唆されること、あるいは本年度用いた同一サンプルについて以前にオープンクロマチン解析(ATAC-Seq)を行ったことがあるので、そうした解析データと突き合わせて整合性あるデータが得られることなどにより確認する。こうした解析により凍結した組織を用いてCUT&Tag法が運用可能であると判断されれば、様々な時期にサンプリングし、凍結したハムスター組織(脳下垂体、視床下部、骨格筋)を用いてH3K4me3とH3K27me3ヒストン修飾をCUT&Tag法により解析する。先に述べたように、一般にH3K4me3とH3K27me3のシグナル強度は逆相関の関係を有するので、様々な時期に組織をサンプリングし、各遺伝子座において両者を縦軸と横軸にとってプロットすると時系列の軌道が直線的になるが、長期間かけてH3K27me3を蓄積させる遺伝子座の場合はH3K4me3とH3K27me3の変化に時間差が生じ、時系列軌道が楕円状となる。こうした特徴を手がかりとして、外環境の情報をエピジェネティック修飾の形で長期間にわたって蓄積し、季節性の生理応答に重要な役割を果たしている遺伝子を同定することを目指す。一方、本年度作製したCUT&Tagライブラリーがヒストン修飾を正しく捉えられていないと考えられた場合、凍結細胞ではなく生細胞を用いてライブラリー作製を行い、実験系の改善を試みる。
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