2023 Fiscal Year Annual Research Report
軸索終末の入力受容能の獲得による新規長期可塑性の分子機構
Project/Area Number |
22K19360
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 真也 京都大学, 理学研究科, 教授 (00378530)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 神経細胞 / 軸索 / 可塑性 / 活動電位 / シナプス / パッチクランプ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、古典的に全か無の法則で説明される高信頼性の神経軸索における活動電位伝導による情報の伝わり方が、活動に依存して変化すること、およびその結果として終末部からのシナプス出力が動的に変化することを明示し、さらにはそのメカニズムを明らかにすることを目指して研究を進めてきた。 本年度は、小脳の抑制性介在神経細胞における活動電位の伝導について、初代分散培養および急性スライス標本を用いて直接パッチクランプ記録を軸索に適用し、活動電位自体が極めて安定に伝導し、変化する余地は極めて少ないことを明らかにした。しかし、活動電位が同じ大きさ・かたちで軸索終末に到達した場合であっても、終末部の電位依存性Ca2+チャネルの電位センサーの部分的な状態の変化として数ミリ秒間にわたり電位変化の履歴が反映され続けるため、次の活動電位の到来に応じたCa2+流入が変化して終末からの伝達物質放出も変化することを示した。これは、活動電位自体が変化しない場合でも、高頻度の活動電位到達がCa2+流入を変化させてシナプス出力を動的変化させるという新しい短期シナプス可塑性メカニズムであり、その研究成果をeLife誌に発表した。 一方で、小脳プルキンエ細胞での軸索における動的な情報処理機構について、軸索の長さに応じて細胞内シグナルcAMPによる出力調節がアナログ変調することや、第3のカナビノイド受容体として着目されているGPR55が他のカナビノイド受容体とは異なる仕組みでシナプス伝達を減弱することを見出し、一部の成果はプレプリントとしてBioRxivに公開した。 このように研究期間全体として、当初目指していた神経軸索自体の情報受容や活動に応じて、その作動機序が変化する多彩なメカニズムを同定し、柔軟性を有する神経軸索とそれによる神経回路の演算のダイナミクスを洞察するための基盤となる質の高い研究成果を得た。
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