2023 Fiscal Year Annual Research Report
免疫系の役者が脳の発生過程において果たす役割の解明
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22K19365
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
仲嶋 一範 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (90280734)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 脳発生 / 免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
母体の免疫グロブリン(Ig)は胎盤を介して胎児に移行するが、胎児では血液脳関門が未熟なため、脳に反応するIgが胎児脳に移行して障害を引き起こすリスクがある。従って、母体由来Igの胎児への移行には、このリスクを上回る未知の意義があるのではないかと予想した。我々は既にIgを産生できないRag2ノックアウト(KO)マウスを母にもつ仔の脳ではIgが検出できないことを観察していたが、Rag2 KOマウスでは免疫異常の二次的影響が否定できないため、本研究では更に胎児性Fc受容体(FcRn)のKOマウスを調べた。その結果、胎生期/周産期のマウスの脳で検出されるIgは確かに母体から胎盤経由で移行するIgGであり、仔マウス自身で産生されるIgGは検出できないことを確認した。脳内のIgG量は出生後徐々に減少し、生後3週でほぼ消失した。脳のIgGは、これまでに観察していたミクログリアと脳境界マクロファージ(BAM)に加え、軸索束や、髄膜の内皮細胞や線維芽細胞で検出されることを見出した。Fc受容体gamma鎖(FcRgamma)をコードするFcer1g遺伝子のKOマウスを作成して調べたところ、ミクログリアとBAMはFcRgamma依存的に母体IgGを結合する一方で、他の髄膜細胞や軸索束上のIgGはFcRgamma非依存的に結合することが示唆された。これらの結果は、母体由来IgGは複数の方法で異なる機構によって利用されている可能性を示唆している。さらに、母体からIgGを受け取れなかったマウスでは、大脳皮質の抑制性ニューロンの数が出生後に減少することも見出した。出生前後には明らかな異常はなかったことから、出生後の大脳皮質抑制性ニューロンの維持に母体由来IgGの受容が必要であることが示唆された。これらのデータは、明らかな炎症も感染も観察されない発生期の脳において、母体由来のIgGが重要な機能を持つことを示唆している。
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