2022 Fiscal Year Research-status Report
胚固有の低酸素微小環境が誘導する初期赤血球造血と個体発生の新機軸
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22K19396
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 教郎 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (20447254)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 酸素 / 遺伝子改変マウス / 個体発生 / 赤血球造血 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸素は動物細胞の維持・活動に不可欠であり、酸素不足は生命存続を脅かす低酸素ストレスとなる。しかし、血液循環系が成立するまでの初期胚では、酸素供給は胚周辺の溶存酸素の拡散に依存しているため、赤血球を介した効率的な酸素供給ができない。そのうえ、初期胚は細胞増殖や細胞移動に大量の酸素を消費するため、初期胚は全体的に重篤な低酸素状態に陥っている。本研究では、循環系成立前後のマウス胚を用いて、胚内酸素分布を明らかにする。また、低酸素領域において低酸素誘導性転写因子HIFが活性化して赤血球造血因子産生を誘導することを示す。さらに、血管や神経組織などの正常な形成にも胎仔固有の低酸素環境が必要であることを示し、胚内低酸素環境はストレスではなく、個体発生を誘導するシグナルとして必須の役割を担っていることを提唱する。 初年度は、マウスの血液循環系が成立する胎生9日目前後において、胎仔が全身性に低酸素状態に陥っており、HIF1aおよびHIF2aが活性化していることを確認した。また、赤血球造血因子エリスロポエチンの遺伝子発現が主にHIF2aの活性化によって誘導されることを見出した。さらに、胎生後期のエリスロポエチン産生もHIFによって制御されることを明らかにした。以上の結果から、胎生期の赤血球造血は、成体と同様に、HIFによるエリスロポエチン産生制御系を介して、低酸素誘導的に制御されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究では、まず、マウスの血液循環系が成立する胎生9日目前後における低酸素領域の分布を調べた。低酸素組織を検出するプローブによる解析は困難であったが、低酸素環境下で蓄積する転写因子HIF1aが胎仔の全身で高発現していることを確認した。また、HIF1aの蓄積は赤血球循環が確立されると徐々に減少することを見出した。これらの結果から、胎生中期の胎仔は低酸素状態に陥っていることが確認された。 次に、個体発生における最初の赤血球造血に必要なエリスロポエチンの産生制御機構について解析した。これまでに、胎生中期には神経堤および神経上皮からエリスロポエチンが分泌され、循環開始とともに卵黄嚢での赤血球造血を促すことを報告した(Suzuki et al. Nat Commun 2013)。そこで、胎仔の神経組織をex vivo環境でHIF活性化剤によって刺激したところ、エリスロポエチン遺伝子発現が亢進した。この発現誘導は、HIF2a特異的阻害剤によって抑制されたことから、胎生中期の神経系組織におけるエリスロポエチン産生は、HIF2aを介して低酸素誘導的に制御されることがわかった。 神経系組織におけるエリスロポエチン産生は胎生後期には消失し、肝実質細胞および腎間質線維芽細胞がエリスロポエチン産生を開始する。妊娠後期の母マウスにHIF活性化剤を投与したところ、胎仔の肝実質細胞および腎間質線維芽細胞においてエリスロポエチン遺伝子発現が誘導された。これらの結果から、胎生期の赤血球造血は、成体と同様に、HIFによるエリスロポエチン産生制御系を介して、低酸素誘導的に制御されていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
エリスロポエチン産生以外にも、胚内の低酸素環境がHIF経路を介して、個体発生・臓器形成を誘導することを示す。実際に応募者らは、ラットの胚を低酸素下(酸素5%)で全胚培養すると正常に発生するが、通常酸素環境(酸素21%)での全胚培養は神経管の閉鎖不全などの形態形成異常を引き起こすことを観察した。また、HIF1の欠損マウスは高酸素全胚培養と同様の神経管閉鎖不全を示すことが報告されている。一方、マウスを用いた予備的解析から、母体への介入による胎仔酸素環境の操作は困難であることがわかっている。そこで、全胚培養装置を用いて、循環系成立前のマウスおよびラットの胎仔をex vivoで2、3日間発生させる。全胚培養系の酸素濃度を高くすることにより、胚内低酸素を解除し、発生や形態形成に生じる異常を探索する。とくに、赤血球造血、神経管形成、血管新生の低酸素依存性に注目して解析を進める。また、全胚培養系の培地中酸素濃度を測定するとともに、胚内酸素環境を確認する。さらに、HIFを活性化する薬剤を高酸素全胚培養系に添加し、個体発生異常が解除されるかを検討する。
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Causes of Carryover |
学内で全胚培養装置を譲渡され、その補修を今年度中に実施し、部品交換等の経費に充てる予定でしたが、専門業者による現状把握に時間がかかり、見積の算出が次年度にずれ込むことが判明したため、次年度使用額が発生しました。次年度使用額は予定通り、全胚培養装置の再稼働に必要な物品の購入に使用します。
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