2022 Fiscal Year Research-status Report
炎症促進的な造血応答を引き起こす新規誘導因子の同定
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22K19425
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
金山 剛士 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (80811223)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 造血 / 感染症 / 炎症 / IL-10 |
Outline of Annual Research Achievements |
敗血症のような急性炎症病態では、好中球や単球・マクロファージといった自然免疫細胞が炎症性サイトカインを産生することで炎症の増悪化に寄与している。また、このような炎症病態では自然免疫細胞の急激な増産(Emergency myelopoiesis, EM)が誘導されることが知られており、現在、複数の炎症性因子がEMの誘導に関与することが報告されている。本研究では、このEMを誘導する新たな炎症性因子の探索を行ったところ、予想に反して抗炎症性サイトカインであるIL-10がIL-1βと相乗的に作用することで造血前駆細胞からのミエロイド系細胞産生を促進する役割があることが分かった。また、IL-10は造血前駆細胞を炎症による細胞死から保護することで、結果的にEMを増加させていることも明らかとなった。敗血症を誘導したマウスの骨髄においてB細胞がIL-10の重要な供給源であることが分かった。B細胞特異的なIL-10の欠損や、造血前駆細胞におけるIL-10受容体の欠損は造血前駆細胞の細胞死を亢進させ、EMによる好中球や単球の産生を有意に抑制することが分かった。さらに、B細胞のIL-10によるEM強化は全身感染における病原体排除を加速することも明らかとなった。このように、これまで抗炎症性因子であると考えられてきたIL-10が、造血系においては炎症性サイトカインと協調的に作用し、EMを亢進させ自然免疫を高めることが分かった。以上の結果はJournal of Experimental Medicine誌に掲載され、第51回日本免疫学会学術集会シンポジウムで口頭発表されている。さらに、2023年度日本生化学会のシンポジウムにおいて招待講演が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、敗血症のようなサイトカインストームを伴う急性炎症病態において、これまで抗炎症性サイトカインであると知られていたIL-10が、骨髄における急激なミエロイド系細胞(Emergency myelopoiesis, EM)の誘導因子として働くことを明らかにした。IL-10によるEM促進のメカニズムとして、①感染症のような急性炎症病態ではB細胞が骨髄におけるIL-10の供給源となること、②IL-10は造血前駆細胞に発現するIL-10受容体を介して直接造血に作用すること、③造血前駆細胞のミエロイド系細胞分化を促進し、この促進作用はIL-1βによる相乗効果があること、④IL-10は造血前駆細胞を炎症刺激による細胞死から保護することで、造血系の恒常性を維持し、重篤な炎症状況下でも自然免疫細胞産生を維持することを明らかにした。また、B細胞が産生するIL-10は、EMを亢進し、自然免疫細胞の抹消組織への供給を高めることで、全身的な感染症における病原体の排除を加速させる役割があることも証明した。以上の結果は、「Immunology」分野や「MEDICINE, RESEARCH & EXPERIMENTAL」分野のTop10%論文であるJournal of Experimental Medicine誌に掲載され、第51回日本免疫学会シンポジウムにおいても報告されている。以上のように、当初の予定を上回る速さで研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果より、マウスを用いて感染症等により誘導されるミエロイド系細胞の増産(Emergency myelopoiesis, EM)を、代表的な抗炎症性サイトカインであるIL-10が促進することを明らかにしてきた。これらの成果を受けて、今後の研究の方向性を大きく2つに分けた。一つ目の方向性として、単球や好中球以外の血球産生経路において、IL-10がどのような影響を与えるか調べる。すでにIL-10受容体のタモキシフェン誘導性の欠損マウスを作製しており、このようなマウスから回収したIL-10を欠損する様々な造血前駆細胞をマウス骨髄に移植し、炎症病態においてIL-10受容体からの刺激が各造血前駆細胞の分化にどのような影響を与えるのか検証を行う。さらに、これまでの結果より、IL-10にはIL-1βと機能的な相乗効果があることが明らかとなったため、in vitroの培養系を用いて、IL-10と協調的に作用する新たな分子の探索を行う。2つ目の方向性として、ヒト造血前駆細胞におけるIL-10の影響を検討する。臍帯血や骨髄検体から回収した造血前駆細胞をIL-10で刺激することで分化の方向性に影響を及ぼすかin vitroで検討する。また、造血系をヒトに置き換えたヒト化マウスを作製し、抗体によるIL-10の阻害が炎症や感染症に対する造血応答に影響を与えるかin vivoで解明する。ヒトでIL-10の作用が確認されない場合、改めてヒト細胞を用いたスクリーニングを行い、ヒト造血系でEMを亢進させる新たな因子の同定を目指す。
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Causes of Carryover |
当初予定していた使用額と305円の差が生じたが、これは次年度の消耗品費として使用予定である。
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