2022 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞を用いたインスリン遺伝子異常症モデルの作成
Project/Area Number |
22K19507
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 義弥 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (60359792)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | インスリン遺伝子異常症 / iPS細胞 / 病態モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒトiPS細胞を用いて、インスリン遺伝子のイントロン2にヘテロ接合型 c.188-31G>A変異を持つインスリン遺伝子異常症の病態モデルを作成し、本モデルを用いた薬剤スクリーニング系の樹立を目指す。 iPS細胞株を用いた遺伝性疾患の病態再現には、患者自身の細胞から新たにiPS細胞株を樹立し、変異箇所を是正した細胞株をコントロールとして、目的細胞に分化誘導して比較する手法がしばしば用いられる。この方法は、問題とされる遺伝子変異を含めた全ての患者遺伝背景を反映するメリットがあるが、目的細胞への分化誘導効率が低い細胞種の場合は、せっかく作成した患者由来iPS細胞株では病態再現が不明瞭になるリスクがある。 そこで、2022年度は既存のヒトiPS細胞株の中でβ細胞誘導効率の高いことが知られるChiPSC12株にCRISPER/Casを用いてc.188-31G>A変異を導入し、ヒト疾患と同じ変異を持つヘテロ変異株に加え、病態を極端に反映すると期待されるホモ変異株および正常株の三者を用いて分化誘導を行った。個々の分化誘導プロトコールによるアーチファクトの影響を避けるため、既報と、我々独自のプロトコールの2種類の分化誘導方法でβ細胞を作成し、両者に共通したフェノタイプに注目した。その結果、①インスリン蛋白発現当初から分化過程を通じたインスリン細胞数の減少が観察され、②予想通り、早期からの小胞体ストレス反応発動とストレスマーカー陽性細胞の経時的蓄積を見出した。③意外にも分化過程初期~中期の細胞死は促進しておらず、分化過程終盤にアポトーシス細胞が散見される程度であり、むしろ分化過程を通じた細胞増殖能の低下とインスリン転写抑制がインスリン細胞数減少の主因であることが分かった。そこで、治療候補薬剤X,YおよびZの添加を行ったところ、上記フェノタイプのほぼ全てが改善することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
治療候補薬剤を見出しており、本疾患の病態の進行に関わる細胞内分子メカニズムの解明に向けた有力なツールとして使用できる。
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Strategy for Future Research Activity |
インスリン遺伝子異常症は変異パターンによって特有の病態をとり、発症年齢や重篤度の異なる症候群である。いずれの変異パターンであっても病態の発動は異常インスリン蛋白生成が初発する(つまり、β細胞が分化する)胎生期にまで遡り、変異型によって病態進行スピードが異なると想定されることから、病態の全過程の再現にはヒトiPS細胞を用いたin vitro分化誘導系が最適である。本研究は、c.188-31G>A変異型の病態再現と治療薬候補の同定を目指したものであり、残りの研究期間内に萌芽研究として当初設定した目標は達成できる見込みである。 本研究をさらに発展させ、他の変異パターンでも同様の解析方法をとることで、発症年齢および重症度が異なるインスリン遺伝子異常症候群における、β細胞の機能低下から細胞死に至る病態メカニズム(病態進行スピード)の相違を解明し、それぞれの変異型での最適治療(治療薬および治療タイミング)の設定が可能になると見込まれる。
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Causes of Carryover |
当初、疾患と同じ変異を導入したiPS細胞からベータ細胞を効率的に分化誘導する方法の改良には多くの試行錯誤が必要と見込まれたが、予想外に既報プロトコールより効率的な分化誘導方法の樹立に成功した結果、1,327,097円の予算が節約できた。病態モデルの解析から、主として2つの細胞内経路の異常を発見し、うち一つについては有効化合物の同定に成功している。節約できた予算については、来年度にもうひとつの細胞内経路の修飾によって治療効果を得られるかどうかを検討し、それが実証できれば2つの細胞内経路を同時に改変する実験を行い、相乗効果の有無を検討する方針です。
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