2022 Fiscal Year Research-status Report
Regulatory mechanism of spatiotemporal coordination of gastrointestinal motility and its medical application
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22K19530
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小川 佳宏 九州大学, 医学研究院, 主幹教授 (70291424)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 消化管運動 / 高解像度食道内圧検査 / 数理モデル / 光遺伝学 / 排便中枢 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、消化管運動の時空間的強調性における「括約筋」制御の分子機構を以下の3つに分けて検討する。 [1] 消化管運動の時空間的協調性における下部食道括約筋の役割の解明:嚥下により食塊が咽頭から食道に入ると、機械受容チャネルと迷走神経を介した下部食道括約筋の時空間的協調的な弛緩反応が誘導されるが、分子機構は不明である。本研究では、対照患者より得られた臨床検体を用いた遺伝子発現解析により、約10種類の機械受容チャネルの発現を明らかにした。一方、無刺激時の下部食道括約筋の収縮性維持について、非括約筋では無刺激時のミオシン軽鎖リン酸化レベルがわずか数%程度であるにもかかわらず、下部食道括約筋では約20%に認められた。 [2] 中枢神経による消化管括約筋機能の制御機構の解明:排便機能を担う肛門括約筋は中枢神経にある排便中枢により制御されているが、分子機構は不明である。本研究では、排便中枢の局在および機能的役割の解析に着手した。逆行性トレーサーである仮性狂犬病ウイルスや光遺伝学的手法により、CRH/VGluT2 活性化が肛門括約筋調節に関与すること、TH 活性化は直腸肛門調節に関与しないことが示唆された。以上により、肛門括約筋調節を担う排便中枢は、バリントン核(Bar)であり、CRH と VGluT2 発現ニューロンが排便に関与することが示唆された。 [3] 数理モデルによる消化管運動の時空間的協調性の制御機構の統合的理解:FitsHugh-Nagumo方程式を応用して高解像度食道内圧検査で可視化した食道の正常運動を模倣するプロトタイプの数理モデルを開発した。本数理モデルにより、食道無蠕動と一部の食道アカラシアの内圧波形が再現可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1] 消化管運動の時空間的協調性における下部食道括約筋の役割の解明:解析に必要な高解像度食道内圧検査を用いた食道内圧データ利用と上部消化管内視鏡検査時に採取する臨床検体を用いた解析は、既に臨床研究として倫理審査で承認されている。一方、対照群として解析に必要な早期胃癌患者の臨床検体も十分に得られている。小さな臨床検体である平滑筋を用いたミオシン軽鎖リン酸化の測定手技の最適化にも成功しており、RANseq解析も計画通に進んでいる。以上により、概ね研究は順調である。 [2] 中枢神経による消化管括約筋機能の制御機構の解明:中枢神経におけるBar-CRHとBar-VGluT2 発現ニューロンが肛門括約筋の調節に関与することを世界で初めて明らかにした。CRH-creマウスとVGluT2-creマウスの光刺激に対する反応を比較検討することにより、Bar-CRHとBar-VGluT2の機能的役割の差異を明らかにした。光遺伝学的手法により得られた結果の検証のため、化学遺伝学的手法を用いる実験系の準備が整っている。Cre依存的に感染する仮性狂犬病ウイルスをBarに感染させることにより、複数の排便上位中枢候補の探索にも成功した。以上により、概ね研究は順調である。 [3] 数理モデルによる消化管運動の時空間的協調性の制御機構の統合的理解:正常食道運動と主要な食道運動機能障害である食道アカラシアあるいは食道無蠕動を再現するプロトタイプの数理モデルの開発に成功した。あらゆる食道運動機能障害を再現し、実臨床に応用可能な数理モデルの開発に必要な各種パラメーターの絞り込みは、令和4年度の検討により終了している。以上により、概ね研究は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] 消化管運動の時空間的協調性における下部食道括約筋の役割の解明:令和5年度は、下部食道括約筋の時空間的協調的な弛緩反応が障害される疾患である食道アカラシア患者より得られた臨床検体を用いて検討する。既に得られている対照群の検体と比較検討することにより、下部食道括約筋の一過性弛緩反応に関与する機械受容チャネル分子を同定する。CPI-17によるミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の活性調節に焦点を当てて、無刺激時に下部食道括約筋のミオシン軽鎖リン酸化レベルが高く維持される分子機構を検討する。 [2] 中枢神経による消化管括約筋機能の制御機構の解明:令和5年度は、仮性狂犬病ウイルスをBarに感染させることにより見出した複数の排便上位中枢候補に対して、光遺伝学的手法を用いて局在および機能的役割の解明を進め、Barとの関連性を明らかにする。光を用いて神経活動を測定する技術の1つであるファイバーフォトメトリー法により、排便中枢における排便時の神経活動を評価して機能的評価を進め、肛門括約筋を調節する排便関連神経回路の分子機構を解明する。 [3] 数理モデルによる消化管運動の時空間的協調性の制御機構の統合的理解:前年度に開発したプロトタイプの数理モデルでは、食道胃接合部通過障害、遠位食道痙攣さらにはジャックハンマー食道の挙動を再現できなかった。令和5年度は、プロトタイプの数理モデルに、神経細胞の活動性および筋細胞の活動性を調節するパラメーターを追加し、パラメーターを最適化することによって数理モデルを改良する。改良された数理モデルにより、消化管運動の時空間的協調性の制御機構の統合的理解を目指す。
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