2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Spatial Cognition in High-dimensional Geometric Space through Touch and Tactile Interaction
Project/Area Number |
22K19817
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
澤田 秀之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00308206)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 高次元幾何 / 接触インタラクション / 空間認知 / 触力覚 / SMAアクチュエータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究は、VR技術と触覚ディスプレイを統合して、数学や物理学、情報科学の分野で扱われる高次元空間やそこに定義される物理現象、多次元データ情報を直感的に理解できるシステムを構築する。更に本システムを用いた空間認知実験によって、高次元空間の認知に関する新しい理論を構築することを目的としている。当該年度はその研究の初年次の成果として、4次元空間で定義される幾何構造を3次元空間へ投影し、VR映像と接触感覚を生成してユーザに提示する4次元空間可視化システムを構築した。 本システムでは、物体表面に触れることによる皮膚への刺激を計算するアルゴリズムを4次元に拡張し、仮想空間内の4次元生物が4次元物体に触れる際の、3次元皮膚への刺激を3次元パターンとして計算する。計算により得られた刺激は、30個の小型振動アクチュエータを搭載した触覚グローブにより、振動パターンとして提示する。VRゴーグルを装着して4次元空間内に没入したユーザは、その空間内の3Dスクリーンに投影された4次元空間の映像を観察し、映像に手を重ねることで、4次元物体とのインタラクションを体験することができる。 本システムは、4次元空間で定義される幾何構造に対して、ユーザの手との接触「超面」(4次元であれば「胞」)を数理的に定義して、超面の接触感覚を提示しようとする初めての試みである。本システムを用いた高次元空間における接触感覚を伴うインタラクションによって、高次元の対象や高次元データの表現力が向上し、それらをより直感的に理解することが期待できる。これまでの研究成果は、数学や物理学、情報科学の教育や研究において革新的なアプローチを提供すると共に、データ解析や可視化手法の更なる発展にも貢献することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、人間の直感的行動を高次元幾何空間へと拡張し、VR映像技術と触覚ディスプレイを統合して、ユーザが高次元空間世界に視覚と触力覚を使って没入できるシステムを構築することを目的としている。研究課題の研究実施計画は、大きく3つの項目からなる。まず最初の項目では、高次元空間から3次元空間への射影の数学的記述を構成し、それをVR映像によりユーザに提示する手法を提案する。第2項目では、形状記憶合金(SMA)ワイヤを利用した微小振動アクチュエータによる新しい触覚グローブを構築し、それをVR映像システムと統合する。これにより、高次元空間の映像に対するユーザの接触動作へのリアクションとして、リアルタイムで手の全面に触覚感覚によって提示することが可能となる。項目3では、ユーザが高次元空間の体験によって、高次元の幾何構造や空間構造を直感的に理解できるようになるのかを検証し、高次元空間の認知構造やその形成過程について新しい理論の構築を行う。 初年度の研究において、4次元空間の幾何構造を3次元空間へ投影し、VR映像と接触感覚を生成してユーザに提示する4次元空間可視化可触化システムを構築した。本研究成果は、情報処理学会論文誌に掲載され、研究実施計画の項目1を達成したといえる。現在のシステムでは、新しく構築した触覚グローブを用いてユーザに触覚の提示をおこなっているが、高次元空間内の接触面に対する触覚感覚の提示においては、十分な感覚が得られていない。様々な面や複雑な形状に対する接触感覚の提示には、更にアクチュエータの制御パラメータの検証が必要となる。次年度は、SMAアクチュエータの実装と駆動制御について、詳細な検討を進めていく。 以上を踏まえると、3年間の研究期間のうち1年目において、研究実施計画中の3つの項目のうちの一つが達成され、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題の推進方策としては、第一に、申請者らが研究を進めてきたSMAワイヤアクチュエータを編み込んだ触覚グローブを再構築し、制御パラメータを詳細にチューニングして高次元空間内の接触感覚をリアルタイムで提示するシステムを構築する。SMAワイヤを用いた微小振動アクチュエータにより、小型で皮膚への物理刺激を緻密に制御可能な触覚グローブの構築が可能となることが期待される。高次元物体の接触感覚をより正確かつリアリティを持って表現できるようになると考えている。 次に、構築した高次元空間システムに物理演算を導入する。初年度に構築したシステムは接触感覚の生成に静的な演算を用いているため、表現可能な接触感覚が制限されている。幾何代数の概念を導入して高次元空間の剛体運動を計算可能にすることで、より多様な接触感覚の表現が可能になると考えられる。 更に、構築したシステムを用いて、高次元空間の認知実験を実施する。現在のシステムは性能において向上の余地が残っているものの、既に一定の機能を実装しており、ユーザに対して高次元空間の理解に寄与することを確認している。ユーザ実験に基づいて、高次元空間の認知構造や認知の形成過程に関する理論を構築することが本研究の最終目的となるため、上述のSMAアクチュエータを利用した触覚グローブの研究と並行して、可能な実験について検討していく。 研究2年目においては、SMAアクチュエータを用いた触覚グローブの構築と物理演算の導入の2項目を達成する。これらの研究成果を基にして、ユーザの認知実験の計画と実行に移り、高次元認知に関する理論の構築に取り組む。また、計画研究において予期しない問題が発生した場合は、現状のシステムで実施可能な認知実験を再計画し、十分な成果が得られるよう逐次、留意していく。
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Causes of Carryover |
研究は当初の予定通り進んでいる。しかし論文発表を予定していた国際学会が次年度に延期されたため、学会の参加費と渡航費および、追加実験実施のための経費を繰り越した。
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