2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K19846
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 二酸化炭素 / 三酸素同位体組成 / 対流圏 / 陸域生態系 / 都市大気 |
Outline of Annual Research Achievements |
二酸化炭素は主要な温室効果気体であり、対流圏における濃度増加が大きな問題となっている。この増加は化石燃料の燃焼に伴って放出される人為起源二酸化炭素が単純に蓄積して引き起こされている訳ではなく、多くは海洋や陸域生態系との間で活発な相互作用をし、最終的に対流圏に蓄積するのは全人為起源二酸化炭素の半分程度とされている。そのため、対流圏における炭素循環やその経時変化について理解することは温暖化防止や温暖化の進行に対する生態系の応答を理解する上で重要である。 大気中の二酸化炭素の起源や挙動の指標として、質量数12と13の炭素原子比や、質量数16と18の酸素原子比が、古くから活用されてきた。しかしこれら従来からある同位体比指標は、光合成などの吸収過程でも値が変化してしまうため、抽出できる情報の確度が低かった。近年、二酸化炭素の三酸素同位体組成、すなわち質量数16と18の酸素原子に対する質量数17の酸素原子の相対過剰量が、二酸化炭素の起源の差異のみを単純に反映して微小変化することが明らかになった。しかし、従来の二酸化炭素の三酸素同位体組成分析法は、危険性が高く、かつ入手困難な強還元剤を必要としたため、実測は困難であった。そこで本研究は、強還元剤を一切使わずに二酸化炭素の高精度三酸素同位体組成分析を実現する自動分析計を開発した。新手法では、二酸化炭素を水素と反応させて水に変換し、キャビティリングダウン型分光計を用いてこの水の三酸素同位体異常を分析する。同一試料を、導入量を変えて複数回測定することによってブランク補正をすることに成功し、一試料当たり40umolの二酸化炭素を導入・測定することで、その三酸素同位体組成を0.025‰ 以内の高い精度で測定できるようにした。また三酸素同位体組成既知の水と平衡化させた二酸化炭素の三酸素同位体組成を測定することで確度補正を行うことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分析方法の目処がたち、国内学会での発表も行った。 <分析システムの開発>①二酸化炭素の精製:二酸化炭素の水化前に、二酸化炭素以外の含酸素化合物を低温トラップ(-196°C → -70°C)と分離カラム(Porapak PS×10 m)を使って完全に分離除去を行う条件を決定した。②二酸化炭素の水化:分離カラムから二酸化炭素だけが溶出するタイミングでこれを水素とともに600 °Cのニッケル触媒に導入して完全に水化し、低温トラップ(-196°C)に捕集した。導入した二酸化炭素量とキャビティリングダウン型分光計で定量化した水量を比較し、最適な反応管の長さと温度、流速条件などを決定した。③水の三酸素同位体組成分析:低温トラップを室温に戻した上で高純度窒素を用いて希釈し、キャビティリングダウン型分光計に導入して、水の質量数16と18の酸素原子に対する質量数17の酸素原子の相対過剰量を分析した。また前後に同位体比既知の水を導入し、三酸素同位体組成を校正した。 <分析精度・確度の検証>導入量を変えて同一の二酸化炭素を繰り返し分析し、導入量ごとの精度を検証した。また、従来法 (連続フロー型質量分析法) と同一試料の分析結果を比較することによって確度を検証した。さらに、同位体比既知の水と酸素同位体比交換平衡に到達した二酸化炭素の三酸素同位体組成を分析し、確度のクロスチェックを行った。その結果、二酸化炭素の三酸素同位体組成を高い精度で測定できるようにした。 <大気観測>名古屋市の都市大気、伊勢湾内の洋上大気、さらに自動車の排ガスを採取し、二酸化炭素の三酸素同位体組成を測定したところ、排ガスに比べて都市大気や洋上大気の方が0.3‰前後高くなることが明らかになった。これは排ガス中に含まれる二酸化炭素の中の酸素原子の大部分が、対流圏酸素ガスに由来することを反映したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、大気観測を本格的に行う。 大気観測は、渦集積法による二酸化炭素フラックス観測を行っている森林(滋賀県大津市桐生水文試験地)と都市郊外(愛知県名古屋市名古屋大学)で行う。本研究で開発した分析システムを用いて大気試料中の二酸化炭素の三酸素同位体組成を測定する他、従来の質量分析法を用いて炭素同位体組成と酸素同位体組成を分析し、化石燃料燃焼と陸上生態系からの二酸化炭素フラックスをそれぞれ見積もる。観測場所、季節、昼夜の異同に重点を置いて解析を進める。
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Causes of Carryover |
分析手法の開発が順調に進んだことにより、分析手法開発のための基礎実験に用いるガス代を抑えることができた。その分、次年度の大気観測を増やす予定であり、その測定に必要なガス代に充てる。
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Research Products
(12 results)