2022 Fiscal Year Research-status Report
Development and practical application of a new filter to promote collaboration between the chemical and biological research fields of aerosol toxicity assessment
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22K19851
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30348809)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | エアロゾル / フィルター / 化学分析 / 生物分析 / 有害性評価 / 水溶性繊維 / 細胞曝露 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、捕集した粒子状物質を全て細胞に曝露することが可能な水溶性フィルターを新規に開発し、化学成分分析と生物分析、耐久性の観点から既存の大気粒子捕集用フィルターと比較して性能の評価を行った。水溶性化合物水溶液をエレクトロスピニング法によって繊維化し、紡糸時間が異なる水溶性フィルターを作製した。作製したフィルターを用いて、OPC (Optical Particle Counter) による捕集効率測定と純水への溶解性試験を行い、紡糸時間を含めたフィルターの作製条件を決定した。作製条件の決定後、水溶性フィルターとPTFEフィルターを用いてJIS試験用粉体1の11種 (関東ローム) を飛散させた空間や実大気環境下で実際に粒子を捕集し、エネルギー分散型蛍光X線分析法により化学成分分析を行い、捕集した粒子の組成を比較した。細胞曝露実験では、水溶性フィルター懸濁液をヒト肺胞基底上皮腺癌細胞 (A549 細胞) に曝露したのち、細胞生存率を測定する WST-1 Assay を行った。耐久性試験では、水溶性フィルターとPTFEフィルター、そしてゼラチンフィルターを用いて24時間おきに捕集効率の測定を行った。その結果、紡糸時間3時間のフィルターは既存のPTFEフィルターと同等の捕集効率を持ち、かつ水に溶解した。化学成分分析試験では、関東ロームを飛散させた空間と実大気環境下のどちらで捕集しても、水溶性フィルターはPTFEフィルターと同程度の捕集性能を持ち、化学成分分析に使用可能であることが分かった。また生物分析試験では、水溶性フィルター懸濁液を曝露した細胞と通常の細胞培地を加えた細胞 (コントロール) の細胞生存率の間には有意差が見られなかった。耐久性試験では、水溶性フィルターは測定開始後1日で破損したが、水溶性フィルターは破損せず高い捕集効率を示し続けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画通り、水溶性フィルター紡糸条件を確立し、さらに二年目に実施予定だった実環境中での従来法および水溶性フィルターによる大気粒子採取と化学・生物分析を前倒しして実施している。一方で、初年度に予定していた水溶性フィルターの各種物性パラメータの取得の一部はまだ完了していないが、これは次年度の前半までには完了予定である。以上を勘案し、現在までの到達度を、おおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、大気粒子の有害性発現メカニズムを解明するための基盤技術として、従来化学分析に用いられてきたフィルターの特徴である高強度・高耐候性と高い粒子捕集効率を維持しながら、ある条件では水に溶けて細胞・動物曝露といった生物学・毒性学的実験にも使用することができる、分野間連携を促進するための新規なフィルターの開発と実用化を行うことを目的として研究を進める。 今年度は水溶性フィルターの各種物性パラメータの取得を進め、これと並行して実環境中での従来法および水溶性フィルターによる大気粒子採取と化学・生物分析を継続する。具体的には、作製された水溶性フィルターと、比較対象とするPTFEフィルターを用いて、慶應義塾大学矢上キャンパスの5Fバルコニーにおいて1週間ごとに大気を採取し、元素組成・水溶性イオン成分組成を測定する。さらに生物分析として、水溶性フィルターより得られた粒子懸濁液をヒト肺胞基底上皮腺癌細胞 (A549 細胞) に曝露し、生存率や炎症反応等の細胞応答性を調べる。また、本研究により開発された水溶性フィルターの応用可能性を探索するため、複数の外部機関研究者と連携して、多様な微生物分析ニーズへの応用を試みる。 成果発表については、国内発表1件(大気環境学会)、国際学会1件(Asian Aerosol Conference)、英文学術誌1件(Aerosol and Air Quality Research)を目標とする。
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Causes of Carryover |
(理由)小額の未使用分が発生したため (使用計画)次年度予算と合算し研究費として使用する
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