2022 Fiscal Year Research-status Report
地下流水音を利用した新規地下断裂イメージング技術の開発
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22K19858
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
井岡 聖一郎 弘前大学, 地域戦略研究所, 教授 (40598520)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若狭 幸 弘前大学, 地域戦略研究所, 准教授 (40442496)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 地下流水音 / 地熱 / 地下断裂 / 地下川 / 溶岩流 / 火山ガス / 北八甲田火山群 / 硫黄岳 |
Outline of Annual Research Achievements |
再生可能エネルギーの一つである地熱を利用した発電有望地を見つけるために,透視できない地下の熱水・蒸気が賦存し得る空隙を有する地下断裂構造の評価を様々な地質環境下で行う。その一つに,火山地域に存在する溶岩流がある。溶岩流が堆積した環境では,その空隙率の高さから鍾乳洞のように地下水(地下川)が多く流動し,そして様々な形状をした空隙から地表へ流出し湧水を形成している。湧水には,地下断裂を通過してきた火山ガス起源の気泡が数多く認められる。しかし,目視できない地面下を流れている水中の気泡の存在はこれまで明らかにされておらず,地下断裂の空間的広がりの評価に至っていない。したがって,溶岩流が堆積した環境の地面下を流動している水中の気泡の有無を判定できるかどうか,地下を流れている水中の音を観測できる装置を用いて観測を実施した。 2022年度は,青森県に位置する北八甲田火山群硫黄岳西方標高900m前後の周辺地域を研究対象にし,研究を実施した。はじめに,気泡が認められる湧水周辺に存在している気泡が認められない湧水において試料水を採取した。イオンクロマトグラフ等を用いた一般水質成分の分析に加えて,電極による溶存二酸化炭素濃度測定と外注による炭素安定同位体比分析を行った。その結果,溶存二酸化炭素濃度が高く,かつその二酸化炭素は火山ガス起源であることが示唆された。これらの結果から,気泡が存在する湧水と気泡は認められないが高濃度の二酸化炭素を含んでいる湧水の配置から地下の断裂を推定し,その延長線上にある地表面上において,気泡の有無を判定できるかどうか地下流水音観測を実施した。その結果,地下の水流の存在の有無の強弱が観測で認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は,申請していた通り北八甲田火山群硫黄岳西方の溶岩流が定着した地域を対象として研究を実施した。研究地域では,すでに水中で気泡の生成・消滅が起きている地点と起きていない地点の存在を把握している(硫化水素の存在確認済)。初めに,気泡が存在しない湧水地点における火山ガスの影響評価のために試料採取を行い,一般水質成分の化学分析の他に,比較的簡便な電極による予察的な溶存二酸化炭素濃度測定を実施した結果,高濃度の二酸化炭素を含有してることが明らかになった。そして,高濃度の二酸化炭素も火山ガス起源であると想定されたために,気泡が存在しない湧水の溶存二酸化炭素の起源を評価する目的で炭素安定同位体比分析を実施した。炭素安定同位体比分析結果から,気泡が存在していない湧水中に高濃度で溶存している二酸化炭素は火山ガス起源であることが示唆された。以上の調査結果から,当初気泡が存在する地点と存在しない地点傍で地下流水音測定装置を使用し地下流水音の比較観測を行い,気泡が存在する場の音の音圧を確認することを考えていたが,溶岩流定着地域の微地形から地下の断裂構造の存在が考えられる地表面勾配急変地点周辺で,かつ湧水地点と気泡が認められないが高濃度の溶存二酸化炭素を含んでいる湧水地点の分布から推定される地下の断裂構造の延長線上で地下流水音の観測を実施した。その結果,地下の水流の存在の有無の強弱が観測で認識され,地下の水流の評価の有用性が示唆されたと考えられたため。
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Strategy for Future Research Activity |
再生可能エネルギーの中で唯一地下資源を利用し,気象に依存しない安定電源という利点を有する地熱発電開発のための有望地(熱水や蒸気が賦存している地下断裂構造)を見つける探査法には,地質学的,地球化学的,地球物理学的探査があるが,これら一つだけで完結する探査法はない。数多くの既存探査法を組み合わせて実施した場合においても有望地の発見に失敗する事例がある。したがって,本研究の目的は,新たな探査法の提案が必要であり,地下流水音観測から地下断裂構造を評価する手法に基づく新しい地熱資源探査法を提案することである。2022年度の研究結果から,溶岩流定着地域で実施した地下流水音観測は,地下を流れている水の存在の検出に本手法は有効であると示唆された。そこで,2023年度は地下の断裂構造から流出していると考えられ,現在地下に埋没している温泉の検出手法としての可能性を,地下流水音観測と湧水等の水質分析から評価する。対象地域は,過去天然温泉の湧出があったが,現在その位置が不明な北八甲田火山群赤倉岳の崩壊地標高600m周辺域である。本地域では,これまで湧水の水質調査を行っており,水温が相対的に高い場合や硫酸イオン濃度の変化が大きくなることが確認されている。地下川の流動経路の差異により水質・水温の変化がもたらされているとするなら,水温等が高い時の地下川の流動経路を追うことができれば,地下の断裂構造から流出していると考えられる温泉の位置を推定できる。その結果,地下の断裂構造の評価に貢献できるものと考えるため,2023年度に本内容を実施することを計画している。
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Research Products
(3 results)