2023 Fiscal Year Research-status Report
新奇分子の薬理作用機序解明を可能にする薬物送達システムの確立と炎症疾患治療
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22K19891
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
甲田 優太 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90759325)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 高分子自己組織化薬 / アミノ酸 / 酸化ストレス / 活性酸素種 / 薬物送達システム / 肝疾患 / 敗血症 / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目である昨年度は、初年度に合成したポリエチレングリコール(PEG)とポリシステインのブロック共重合体で構成されるシステイン基盤型高分子自己組織化薬(NanoCys)を敗血症モデルと非アルコール性脂肪肝炎モデルを用いて、その治療効果を検証した。 (1)敗血症モデル NanoCysの最大の特徴は、腸内などの内在性酵素により生分解されてシステインを徐放し、全身のシステイン濃度を一定に維持することでシステインの薬理活性を惹起する。故に、NanoCysを腸内に送達することが重要であり、従来の薬物送達システムとは異なり、高分子ミセル自体は必ずしも患部に直接送達される必要がない。全身性疾患である敗血症は、必ずしも病理機構が明らかになっているわけではなく、明確な対象臓器も明らかになっていない。そこで、NanoCysシステムによるシステインの全身濃度制御を実現する薬物送達が有効に機能するのではないかと考え、実験を行った。 BALB/cマウスに2日間NanoCys水溶液を自由摂水投与した後、リポ多糖(LPS)を腹腔内投与し、敗血症性ショックモデルを作製した。その結果、無治療群や低分子システイン投与群と比較して、致死率が50%に達するまでの時間を5-6時間延長することを実現した。 (2)非アルコール性脂肪肝炎モデル 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝硬変や肝臓がんへと進行する重篤な疾患であるが、有効な治療薬はほとんどない。そこで、C57BL/6Jマウスに7日間、コリン欠乏メチオニン減量高脂肪食(CDAHFD)を与え、CDAHFD給餌の前日からNanoCys水溶液を自由摂水投与した。その結果、低分子システイン投与群では全く効果が見られなかったのに対し、NanoCys投与群では有意に脂肪蓄積抑制効果が見られただけでなく、細胞膜脂質とタンパク質酸化も有意に抑制されていたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に新たに開発し、安全性を確認したNanoCysを用いて自身の仮説通りの薬理活性を発現するかを敗血症性ショックモデルと非アルコール性脂肪肝炎モデルを用いて検証した。その結果、明確なターゲット患部が不明な敗血症性ショックモデルで寿命延長効果を実現しただけでなく、非アルコール性脂肪肝炎モデルにおいても、低分子システインよりも有意な治療効果を得ることができた。これは、本研究で開発しているNanoCysによる薬物送達は、特定の疾患に留まらず、急性から慢性疾患まで幅広い疾患に適用可能であるだけでなく、敗血症のような全身性疾患の治療にも有効であることを示唆する結果である。引き続き来年度は、非アルコール性脂肪肝炎モデルにおけるNanoCysの作用機序とNanoCysを経口投与した場合のシステインの体内動態を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
非アルコール性脂肪肝炎におけるNanoCysの作用機序解明を進める。さらに、NanoCysによるシステインの動態を明らかにし、本研究目的の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
研究遂行に当たり必要経費を計上したが、更なる動物実験と生化学実験を行うのに十分な金額が残らなかった。次年度に繰越し、速やかに該当実験での評価を開始する。
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