2022 Fiscal Year Research-status Report
Biomaterials for preemptive treatments of fibrosis
Project/Area Number |
22K19925
|
Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
長濱 宏治 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (00551847)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
Keywords | 線維化 / 皮膚 / 線維芽細胞 / TGF-β1 / ハイドロゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新しい線維症治療コンセプトとして、「炎症段階でバイオマテリアルを用いて、線維症の二大要因であるTGF-β1と線維芽細胞の時空間的配置を制御することにより、線維症発症を未然に防ぐ」ことを提案する。バイオマテリアルとして、アニオン性のナノ粒子LAPONITEと生分解性高分子PLGA-PEG-PLGAの複合ゲルを設計した。炎症部位に複合ゲルを投与すると、カチオン性のTGF-β1をアニオン性のLAPONITEが吸着してゲル内に留め、周辺組織への拡散を防ぐと共に、線維芽細胞の足場にならないPLGA-PEG-PLGAネットワークが物理的なバリアとなって線維芽細胞のゲル内侵入を防ぐことにより、線維芽細胞の活性化が抑制され、線維症発症が防止されると期待した。実際に、複合ゲル上に播種した線維芽細胞がゲル内に浸潤しないことをin vitro実験により示した。また、TGF-β1溶液を複合ゲル上にのせ、所定時間後に上清を回収してELISAによりゲルへの吸着を定量解析した結果、期待した通りLAPONITEとの相互作用にもとづきTGF-β1を効果的にゲル内に吸着・濃縮することを示した。そこで次に、皮膚の創傷後に線維化が起こるモデルマウスを用い、初期の炎症段階で損傷部位に複合ゲルを投与することで線維化抑制効果を調べた。再建した皮膚組織で切片を作製し、masson trichrome染色によりコラーゲン占有率を定量したところ、コラーゲンの過剰沈着はまったく見られず、正常皮膚と同様に適切な位置に適切な割合でコラーゲンが存在したことから、複合ゲルはほぼ完全に線維化を防ぐことが示された。以上の結果より、複合ゲルはコンセプト通り、生体内でも炎症段階でTGF-β1を吸着・濃縮すると共に、線維芽細胞のゲル内遊走を抑制し、TGF-β1と線維芽細胞が出会わない環境を構築したと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の目標は、損傷を伴う皮膚組織の慢性炎症部位に複合ゲルを投与した後、ゲル構成分子がどのような生体分子や細胞に対してどのように関わり、線維化抑制につながったのか、について理解することであり、上述のように、主要な生体分子および細胞を特定することができた。ゲルの線維化抑制メカニズムの全容解明には至っていないが、本研究にて2022年度に得られた知見を、論文として報告されている既知の知見と統合して理解を深めることで、作用メカニズムの全容解明に至るものと期待される。そのため、本研究が計画の通り、順調に進んでいると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
皮膚線維化モデルを用いて、複合ゲルの線維化抑制メカニズムを完全に解明する。さらに、すべての組織で線維化メカニズムは共通すると報告されているため、複合ゲルは有効性を実証している皮膚に加えて、マルチな組織の線維症に適用できると期待される。複合ゲルが線維化を防ぐ作用メカニズムに関する知見を活かせば、複合ゲルが有効性を示す組織を合理的に予測できるため、今後は複合ゲルがどの組織に対して効果的に線維化を防ぐのか、線維症の発症頻度が高い心臓、肝臓、腎臓、肺、神経、軟骨などを対象に、各種モデルマウスを用いて複合ゲルの線維症先制治療バイオマテリアルとしての有効性を解明する。特に、線維化が致命的で患者数が多く、新しい線維症治療技術の開発が必要とされている心臓と肝臓を優先する。 心臓:左冠状動脈の永久結紮により作製した心筋線維化モデルマウスの慢性炎症部位に複合ゲルを投与し、経時的に心臓の機能解析を行う。また、経時的に心臓の組織学的解析、細胞や分子の免疫染色、遺伝子発現解析などにより、機能との相関を調べる。 肝臓:四塩化炭素の腹腔内頻回投与により作製した肝臓線維化モデルマウスの慢性炎症部位に複合ゲルを投与し、経時的な血液検査により肝機能を調べる。また、経時的な組織学的解析、細胞や分子の染色、遺伝子発現解析などにより、機能との相関を調べる。
|
Causes of Carryover |
2022年度の研究は計画の通りに進めたものの、想定していたよりも小規模の実験および回数により目的の大部分(複合ゲルの線維化抑制メカニズムの解明)を達成したため、実験材料に係る物品費が余る状況になった。2023年度には動物実験を計画しており、PLGA-PEG-PLGA/LAPONITE複合ゲルの線維化抑制効果を個体レベルで検証するが、個体レベルの再現性はPLGA-PEG-PLGA/LAPONITE複合ゲルの概念実証に必要不可欠であるため、繰越した物品費を活用して再現性確認実験を徹底して行う。
|