2022 Fiscal Year Research-status Report
中世ヨーロッパにおけるパネル型聖遺物容器の歴史的展開についての包括的研究
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22K19951
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
太田 泉フロランス 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50951399)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 美術史 / 西洋中世工芸 / 聖遺物容器 / キリスト教美術 / 比較美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度である今年度は、これまでの準備研究の取りまとめを行いながら、更なる関連文献資料の博捜、読解、教会および世俗君主の財産目録などを中心とした未刊行の一次史料の収集、そして金細工工芸研究に欠くことのできない教会宝物室や美術館などにおける作品の実見調査を行なった。上半期には、特にH. Klein, Byzanz, der Westen und das wahre Kreuz. (2004)やA. Frolow, Les reliquaires de la vrai croix(1964)等の精読を通じて、本研究課題で扱うべきパネル型聖遺物容器のリスト化を行った。続いて、個々の作品が保持し得た機能や意義についての精査を行い、公的な礼拝に資するものや、個人的祈念の対象となるもの、保持者の権威を補強するものなどタグ付けを行い、《リブレット》に至るまでに西欧で制作されたパネル型聖遺物容器群が、世俗的/宗教的コレクションにどのように位置づけられるかを全体的に把握することに努めた。11月末からは、欧州での作品・文献調査出張を行った。とりわけ、クリュニー美術館にてTableau-reliquaire : Crucifixion entouree des instruments de la Passionについての詳細な実見調査、関連資料調査を行うことができ、新たな知見を得られたこと、Opificio delle pietre dureにて修復家、修復科学者らとの意見交換を行い、上半期の成果に対するフィードバックが得られたことは本研究の推進に大きく寄与すると思われる。 また比較美術史的観点から、11月に「羽黒と熊野Ⅱ:聖地と絵図」というフォーラムを企画・催行し、聖地の表象について、西欧中世と国内聖地(熊野・羽黒・雲仙)の事例を比較し、相対化する試みを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、11月28日から12月21日まで、比較的長期の欧州調査出張を行うことができたため、新規の研究対象作品リストの拡充や、関連一次史料の調査、そして海外研究者らとの対面でのディスカションなどをある程度集中して遂行することが可能となった。計画段階では未知であった事例を取り入れること、これまで美術史の俎上にのせられてこなかった事物を取り入れることで、より網羅的な研究としてまとめられると思われる。一方で、膨大な事例や資料の分析・位置づけにはかなりの労力と時間を割くことが必要となり、アウトプットにまで至らなかった側面もあり、次年度への課題として継続してゆく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に得た新規の作例や一次史料・文献史料の読解、分析を継続して行いつつ、引き続き事例を収集し、アーカイヴ化してゆく。個々の作例が持っていた機能や意義から出立し、それが用いられた儀礼などについての記述も集め、地域間あるいは教会/君主間での相違や普遍性についての探求を進めてゆきたい。中世後期の聖遺物容器の聖俗混淆の諸相を顧慮しつつ、それぞれの特性を明らかにするとともに、戦争での戦利品として略奪された事例等にも着目することで、作品が制作された環境・文脈の外でいかに受容されてきたかについても目を配り、14世紀までの金細工工芸史におけるパネル型聖遺物容器の普遍的性質を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
計画段階での見積もりより、出張費が安価に抑えられた。また購入予定の書籍等を調査先で複写することが可能となったこと、購入予定の機器購入を次年度に回したことから差額が生じた。次年度では当初予定した予算執行に加えて、上述の機器購入、必要書籍の購入を行う。
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