2022 Fiscal Year Research-status Report
第三共和政期フランスの道徳教育論争に基づくベルクソンとデュルケームの倫理思想研究
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22K19964
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田村 康貴 長崎大学, 多文化社会学部, 助教 (40952651)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ベルクソン / デュルケーム / 倫理学 / 道徳教育 / フランス第三共和政 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4(2022)年度は、以下の二つの観点から研究を進めた。 第一に、19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランスで生じた道徳教育論争の顛末を、同時代の哲学・社会学・教育学の著作や資料の読解を通じて明らかにすることを試みた。特に、フランス第三共和政の道徳教育に理論的にも政治的にも影響を及ぼしたフェルディナン・ビュイッソンの諸著作において、鍵概念となる「道徳的直観」の定義がどのように変化していったかについて考察した。さらに、フランス・スピリチュアリスム(特にクザン)の直観論がビュイッソンの理論に与えた影響や、デュルケームの道徳教育論とビュイッソンのそれとの対応関係についての解釈をおこなった。いずれの考察も、いまだに不明な点の多い第三共和政期フランスにおける道徳教育論争の実態解明に寄与する重要なものである。 第二に、デュルケーム社会学からベルクソンの『道徳と宗教の二源泉』への理論的影響や、両者の相違点や対立点について論じた先行研究における主張の妥当性を検証した。まず、ベルクソンとデュルケームを比較した著作を網羅的に読解し、複数の解釈者が「生物学」に関する両者の差異と、「習慣」に関する両者の類似を説いていることを確認した。次に、ベルクソンとデュルケームのテクストを精読することによって、両者が「生物学」と「習慣」についてどのようなことを主張し、どのような論証を展開しているかを整理した。この考察を踏まえて、あらためて先行研究を批判的に検討することにより、複数の解釈者が主張するようなベルクソンとデュルケームとの差異や類似は、どちらもテクスト上の根拠を欠いていることを明らかにした。以上の成果は、本研究課題であるベルクソンとデュルケームの倫理思想の解明を進める上で、きわめて意義のあるものだと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4(2022)年度末に予定していた海外出張(フランスでの文献の収集と調査)は、論文の執筆や外国語文献の翻訳作業との兼ね合いが難しく、延期せざるをえなかったが、それ以外はおおむね計画どおりに進捗している。なかでも、ビュイッソンの道徳教育論についての考察は、存外に新たな知見をもたらすものとなり、ビュイッソン=ベルクソン往復書簡やビュイッソン=デュルケーム往復書簡など、未公刊・未翻訳の資料の存在を確認することもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5(2023)年度は、以下の三つの作業を予定している。 第一に、19世紀後半から20世紀前半にかけての倫理思想史を踏まえながら、主にベルクソンの『道徳と宗教の二源泉』の読解を進める。ここでの目標は、フランス倫理思想史、延いては西洋倫理思想史におけるベルクソン哲学の位置づけを明確化することである。 第二に、デュルケームの全著作の読解を通じて、デュルケーム社会学における哲学的・形而上学的前提を剔抉する。前年度におこなったビュイッソン道徳教育論との比較研究を敷衍するかたちで、デュルケームの倫理思想のルーツや独自性について分析することとなる。 第三に、上述の二つの作業を踏まえた上で、第三共和政期フランスにおける道徳教育論争においてベルクソンとデュルケームの倫理思想が果たした役割について考察する。この考察によって、ベルクソンとデュルケームにおける道徳教育論の意義やその実践的射程の解明を目指す。
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