2023 Fiscal Year Annual Research Report
第三共和政期フランスの道徳教育論争に基づくベルクソンとデュルケームの倫理思想研究
Project/Area Number |
22K19964
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田村 康貴 長崎大学, 多文化社会学部, 助教 (40952651)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ベルクソン / デュルケーム / 倫理学 / 道徳教育 / フランス第三共和政 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5(2023)年度は以下の二つの観点から研究を進めた。 第一に、19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランスに登場したいくつかの倫理学説を分類・整理し、それらに対するベルクソン哲学からの影響を検証した。その結果を踏まえて、ここでは、ベルクソン哲学への言及がとくに顕著に見て取れたフレデリック・ロオの『道徳的経験』を考察の中心に据えた。同書においてロオが参照しているのは、ベルクソンが道徳についての思索を本格的に展開した『道徳と宗教の二源泉』以前のベルクソン哲学である。この点に着目しながら考察を進めたことにより、『二源泉』以前のベルクソン哲学が有する倫理的含意を明らかにし、さらに、ロオをはじめとする当時の倫理学説に対するある種の応答として『二源泉』を読解する可能性を示すことができた。 第二に、デュルケーム社会学において、時期を問わず一貫して鍵概念であり続けた「集合的表象」の起源を思想史と科学史の両面から探った。まず思想史の面では、〝集合的・一般的なものは部分的・特殊的なものの総和以上の何かである〟という規定は、デュルケーム自身がたびたび言及するルソーにも見られるものであるが、思想史においてはそこからさらに遡ること(モンテスキュー、マルブランシュ、アウグスティヌス、等々)も可能であることが明らかになった。一方、科学史の面では、デュルケームが「集合的表象」をめぐる持論を展開する際、その論拠にしていると思われる同時代の生物学(とりわけ発生学)におけるいくつかの知見を特定することができた。 以上の研究成果はいずれも、19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス倫理学史研究を着実に前進させるものであると思われる。同時にこれらの成果により、ベルクソンやデュルケームといった特定個人の思想の枠組みにとどまらない、より広範な対象の分析が必要であるということを明らかにすることができた。
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