2022 Fiscal Year Research-status Report
A Research on the Cooperation of Philosophy and Natural Science in Germany from 19th to early 20th Century
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22K19980
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Research Institution | National Institute of Technology(KOSEN),Numazu College |
Principal Investigator |
太田 匡洋 沼津工業高等専門学校, 教養科, 助教 (20964901)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | J.F. フリース / フリース学派 / 新フリース学派 / レオナルト・ネルゾン / E.F. アーペルト / パウル・ベルナイス / 超越論的観念論 / アンチノミー |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、新フリース学派の自然科学におけるフリース受容の内実を扱い、その典型としてパウル・ベルナイスにおけるアンチノミーの受容を取り上げた。ベルナイスは数学者・論理学者であるが、フリースの哲学のリバイバルとして 20 世紀初頭に成立した「新フリース学派」の構成員を自認しており、新フリース学派の創設者であるレオナルト・ネルゾンの全集の出版にも編者として関わっている。このような脈絡のもと、ベルナイスは『フリース学派論集・続編』の第 4 号に、「超越論的観念論について」と題された論文を投稿している。このベルナイスの論文の主眼は、カント哲学におけるアンチノミーの議論を再構成することを通じて、カントの超越論的観念論の立場、とりわけ空間・時間の超越論的観念性を再確認することにある。このベルナイスの論文の意図を推し量るための手掛かりとなるのが、この論文が出た 5 年後の 1918 年に、『フリース学派論集・続編』の第 5 号において、ミヒャエル・コヴァレフスキーという人物によって発表された、「超越論的観念論の根拠づけとしてのアンチノミー論 」と題された論文である。この論文は、ベルナイスの論文の実質的な解説に相当するものとなっており、このコヴァレフスキーの論文を手引きとすることによって、ベルナイスの論文の意図を推し量ることができる。そこで本研究では、上記のコヴァレフスキーの論文を手引きとしつつ、ベルナイスの議論の力点を検討することによって、とりわけフリース受容という観点から、ベルナイスの論文に認められるべき思想史上の位置づけを検討した。 第二に、フリースと同時代の哲学者であるショーペンハウアーにおける良心と想像力の問題を取り上げて、ショーペンハウアーのこれらの論点に認められるべきフリースとの親近性を明らかにした。 これらの結果については、口頭発表等の機会に国内外で公表した
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の眼目のひとつはフリース学派・新フリース学派の再評価および、その自然科学との協働の解明に存する。今年度は、(1)フリース学派・新フリース学派の再評価という課題を遂行するとともに、(2)フリース学派・新フリース学派と自然科学の協働という観点についてもアプローチを行い、さらに(3)この研究上の方法論を応用倫理学にも応用することによる、応用倫理学上の新たな知見の解明、にも寄与した。 (1)(2)について 上記の研究活動に加えて、今年度は著書の合評会などの機会にも恵まれ、フリース学派および新フリース学派の活動について、考察を深めることができた。一例として、フリース学派のE.F.アーペルトの『帰納の理論』における「帰納」の重点化に関して、「蓋然性の擁護」という動機付けが強かったと推定されることを指摘した。「蓋然性」の概念は、カント以前の哲学においては一定の位置づけを有していたにもかかわらず、カントにおいて放擲され 、その後の狭義のドイツ観念論においてもあまり顧みられなかったという経緯がある。この状況に際して「帰納」の役割を再び重要視しだしたのがフリースであり、アーペルトはフリースにおける「帰納の重視」という契機を拡張させることによって、本概念の重要性に光を当て、それによってひいては哲学と自然科学の架橋を果たそうとしていたのではないかと考えられる。 (3)について オルタナティブな潮流に光を当てて文献学的な研究を行うという着眼点および方法論を応用倫理学にも適用し、補完代替医療(CAM)における医療倫理の問題に光を当てることを試みた。具体的には、これまで取り上げられることの少なかった鍼灸医療における医療倫理教育の問題を取り上げ、医療倫理教育に関連する文献等を精査することで、「インフォームド・コンセント」の概念をめぐる本概念の位置づけの特殊性について、指摘を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究に際しては、引き続きフリース学派・新フリース学派および自然科学の協働という観点から、研究を推進することを目指している。その一例として、本研究が着目しているのが、オットー・マイヤーホフの初期の哲学研究である。マイヤーホフは、筋肉における乳酸生成と代謝の研究で1922年にノーベル医学生理学賞を受賞した自然科学者であるが、初期のキャリアは哲学・心理学の研究からスタートしており、最初期にあたる1910年の論文においては、ゲーテの研究方法論の分析を行っている。同書のなかでマイヤーホフは、ゲーテの自然研究を批判的に検証するとともに、フリース以来のフリース学派・新フリース学派の主要論点の一つである「抽象」の問題を取り上げる。そして、思想類型のプラトン主義、アリストテレス主義への分類などに定位して、この「抽象」という観点から、自然科学の研究方法の再検討を行う。さらに、このような観点からダ・ヴィンチの再評価を行うとともに、「ゲーテに還れ」という標語に対立させるかたちで「ニュートンに還れ」という標語を打ち立てる。このマイヤーホフの議論は、彼の最初期における新フリース学派の方法論の受容を象徴するものであり、ここで摂取された自然科学の方法論のうちに、後の自然科学探究との間のいかなる関係が認められうるのかを検討するによって、新フリース学派と自然科学の協働に関する知見を深めることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
2022年度はコロナ禍がまだ十分に収束していなかったことなどから、旅費の支出が当初の想定よりも抑えられる結果となった。また、物品購入上のシステムに関する問題などもあり、物品購入費が当初の想定よりも抑えられる結果となった。他方で、研究の進捗の一部が想定以上のものとなった結果として、次年度においては英語による書籍の出版を予定しており、そのためのネイティブチェック費用などの支出が当初の予定よりも増額となった。次年度は、物品購入上のシステムに関する問題が解消したこともあり、当初予定していた物品・書籍の調達などを積極的に行うことを予定している。それに加えて、必要に応じて国内外における学会参加や研究打ち合わせ、資料調査などを行うことで、研究課題を円滑に遂行することを目標としている。
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