2022 Fiscal Year Research-status Report
「装飾的」なる概念を介した19世紀末美術と演劇の連動―ナビ派と芸術座を中心に
Project/Area Number |
22K19981
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
袴田 紘代 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (40736477)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ナビ派 / 芸術座 / 装飾 / 世紀末 / 演劇 / 象徴主義 / 美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀末フランスで活動した画家グループ「ナビ派」と象徴主義演劇の旗手「芸術座」を核とした文芸サークルにおける「装飾的」なる概念の考察を通じて、当時の美術と演劇の理念的交差を検証するものである。 初年度にあたる本年度は、新型コロナウィルス感染防止対策によっていまだ海外渡航が困難な状況にあったため、現状で進めることが可能な資料の収集・調査に注力した。ただし予定していた国内出張による作品・資料の現地調査は、本務との兼ね合いにより実施不可となったため、二次文献の収集とオンラインリソースによる調査が中心となった。これらの二次文献の整理・分析により、19世紀末の画家と装飾芸術をめぐる研究動向を把握することができた。またオンラインで閲覧可能な資料にくわえ、これまでの調査で収集を終えている資料の整理・検討作業も行うことで、今後の研究の基盤を整えた。 上記の作業は本年度中に論文等の具体的な成果物として発表できなかったため、次年度の課題とする。ただし、本研究課題に関連するテーマを調査する機会があり、その成果は報告者が企画と主担当を務めた展覧会カタログ所収のエッセイとして公表に至った(「モーリス・ドニ、内なる眼がみたブルターニュ」『憧憬の地 ブルターニュ ― モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷』展図録、国立西洋美術館、2023年、27-32頁)。 また本研究課題にとって重要な関連領域である象徴主義文学の研究班からの招待発表とその後の議論により、研究を進めるにあたっての新しい視点を得ることができた(共同研究「ポスト=ヒューマン時代の起点としてのフランス象徴主義」班例会、2022年10月9日、京都大学人文科学研究所)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の実施状況は、当初の予定よりも遅れていると言わざるを得ない。育児と本年度末に開幕する担当展覧会の業務に想定以上の時間を割くこととなり、とりわけ年度後半は業務外の研究時間を捻出することが困難な状況が続いた。一方で、本研究課題における主要な考察対象であるナビ派画家たちの一部が本展覧会でも扱われていたため、展覧会の準備過程で本研究に関連する調査を進めることは可能であった。また本年度注力した二次文献やオンライン上で入手可能な資料の収集と分析により、先行研究の現状を把握し、新たな知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策に関しては、当初の研究方法や計画から大幅な変更を加える予定はない。2年目も計画に沿って進めるが、1年目に実施不可となった国内所蔵作品・資料の実地調査を組み入れる。今年度予定している海外調査については、美術館業務や育児との兼ね合いもあるが、とくに業務の計画的な遂行に留意することで、できるだけ早い段階での実施を目指し、収集資料の分析時間を確保する。海外調査以外の調査や資料収集に関しては、当初の計画通りに遂行し、今年度内に論文ないし口頭発表等の具体的な成果として公表できるよう進めてゆく。
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Causes of Carryover |
出張をともなう国内所蔵の作品・資料の実地調査が実施できなかったこと、また業務や育児との兼ね合いによる資料収集の遅れによって資料収集・整理などの業務補助依頼へと至らなかったために、これら旅費、人件費・謝金に割り当てる予定であった資金が手付かずで残された。こうした調査の遅延は、購入すべき資料の選択を滞らせることにもつながり、物品費に関しても当初の予定より少額を使用するにとどまった。これら残存した資金は来年度に繰り越し、未実施の国内調査や文献購入などに当てていく。またこの繰り越しにより、昨今の著しい海外渡航費の高騰分を補うことができる見込みである。
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