2023 Fiscal Year Annual Research Report
古代日本語複合動詞の現代日本語への継承に関する歴史的研究
Project/Area Number |
22K19989
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
阿部 裕 愛知教育大学, 教育学部, 助教 (60965482)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 複合動詞 / 日本語史 / 語彙 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代語から現代語への複合動詞の歴史的継承に関して、1年目は両時代の複合動詞体系を概観することにより、研究対象となる複合動詞群を検討した。その結果、「取る」を前項とする複合動詞(以下「取り―」)が本研究の対象として適切であると認定し、1年目の終盤から2年目にかけて、その継承に関する研究を行った。 「取り―」は古代語・現代語のいずれの複合動詞体系においても重要であり、両時代に共通する複合動詞も多い。古代語において多数生み出された「取り―」の一部が現代語まで継承され、現代語複合動詞における重要語彙を形成していると見ることができる。しかし、その継承の具体的な様相についての知見は少ないため、「取り―」のうち歴史的に意味用法の変化が見られるものを中心に、その継承の様相を観察した。 特に興味深い結果が見られたのは「取り持つ」である。古代語においては主に「物体を手にする」意と「政務や行事を行う」意で使用されるが、現代語においてはほぼ「二者の関係を仲介する」意でのみ用いられる。現代語の用法は古代語の「政務や行事を行う」意が変化したものと推測される。したがって、古代語から現代語まで継承される間に、《「物体を手にする」意の衰退》と《「政務や行事を行う」意から「二者の関係を仲介する」意への変化》があったことになる。調査の結果、この変化が進行したのは中世後期から近世にかけてであることが明らかとなった。現代語「取り持つ」の様相が成立したのはこの頃と言える。 その他の「取り―」についても概観したところ、中世後期から近世に現代語とほぼ同じ体系が成立したと見られるものが確認された。中世後期から近世という時期は、複合動詞の内部構造に変化が起こり、現代語と同じ構造の複合動詞が成立したとされる時期におおよそ一致する。以上より、複合動詞の歴史的継承にはその内部構造の変化が関与している可能性があるという見通しを得た。
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