2022 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピアのロマンス劇における地中海世界への旅とEnglishnessの探求
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22K20000
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
三原 里美 上智大学, 文学部, 研究員 (50963063)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 初期近代英国演劇 / シェイクスピア / 旅行文学 / 地中海貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期近代においてEnglishnessの形成に影響を与えたイングランドと地中海東部地域との経済的、文化的交流を背景に、地中海世界を旅する登場人物を描くシェイクスピアのロマンス劇を分析するものである。本年度は『冬物語』の研究を中心とし、作中のボヘミアを地中海世界の経済圏の一部として、ボヘミアに捨てられるパーディタを地中海の混交性を象徴する人物として捉え直すことで、地中海世界と遭遇するイングランド人の新たな姿を見出そうと試みた。 本年度は国内での調査に加え、大英図書館にて資料収集を行なった。イングランドと地中海世界との経済的、文化的交流について調査し、作中に地中海貿易の商品が登場する点や、相反する要素が織り交ぜられた世界である『冬物語』のボヘミアと、多文化的な混交世界として表象されてきた地中海世界との類似性について分析した。また、初期近代イングランドにおける“bastard”についての言説を探ることで、「私生児」のみならず「混血児」をも意味するこの語が、文化的アイデンティティの混交性を示唆していたことが分かった。これら初期近代の社会的背景に関する調査に基づき作品を精読し、地中海世界と遭遇する初期近代イングランドの旅人と比較しながらパーディタの役割を再考した。これにより、パーディタが地中海の「混血児」として文化的アイデンティティ変容の危機を経験しながらも、ボヘミアの文化に同化することなく「自己の再生」を果たす過程を通して、同時代に不安視されていた地中海文化の影響によるEnglishness変容の危機を脱する旅人の姿が示されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究に必要な資料を大英図書館での調査において十分に収集することができた。この調査自体は本年度の末頃におこなったため、収集した資料を基に議論を発展させるためには次年度にかけても『冬物語』の研究を継続して行なう必要があるが、これらの資料は次年度に扱う予定の『テンペスト』の考察にも大いに役立つと思われるため、研究の遅れは少ないことが見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は『テンペスト』の研究を中心とする。『冬物語』のパーディタと比較しながら、「混血児」としてのキャリバンの役割を考察し、地中海の混交性を象徴するキャリバンの島をプロスペローがいかに再構築するかを明らかにしたい。 大英図書館での調査研究を次年度もおこない、作品世界の重要な要素となるアルジェやトルコなどの地中海諸都市に言及した同時代の資料を参照するほか、作品単体だけでなくロマンス劇というジャンルの構造と地中海世界の表象との結び付きについても探りたい。
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Causes of Carryover |
本年度に海外での調査研究をおこなう際、当初の計画よりも旅費が若干多く必要となることが分かり、前倒し請求をおこなった。しかし追加分のすべてを使用することがなかったため、未使用分を次年度の旅費などにあてる予定である。
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