2023 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピアのロマンス劇における地中海世界への旅とEnglishnessの探求
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22K20000
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
三原 里美 上智大学, 文学部, 研究員 (50963063)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 初期近代英国演劇 / シェイクスピア / 旅行文学 / 地中海貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期近代においてEnglishnessの形成に影響を与えたイングランドと地中海東部地域との経済的、文化的交流を背景に、地中海世界を旅する登場人物を描くシェイクスピアのロマンス劇を分析するものである。本年度は『テンペスト』の分析を中心におこない、作品の舞台となる地中海の島とキャリバンに関する調査を通じて、キャリバンを地中海世界の混交性を表象する人物として捉え、この島を支配するプロスペローが、地中海世界を支配するイングランド人という幻想を提示していることを明らかにした。 本年度も国内外での資料収集、調査をおこない、キャリバンの民族性と関係すると思われるアルジェやトルコに関する資料を参照した。『テンペスト』の島を初期近代の地中海情勢と関連付ける研究は存在するが、キャリバンの民族性についてはアフリカ人と関連付けられることはあるものの、彼をトルコ人の象徴として論じる研究はほとんどなかった。そこで、キャリバンの母親がアルジェ出身と言及されていることから、同時代のアルジェにおけるトルコ人のイメージを探ることで、キャリバンがアフリカ南部の黒人奴隷というよりも、アフリカ北部の地中海沿岸地域に住むトルコ人と結び付きが強い可能性が浮かび上がった。さらに、キャリバンの母親のシコラクスという名前がオスマン帝国内の地域を連想させる点や、「悪魔」と呼ばれるキャリバンが同時代イングランドにおけるトルコ人のイメージと類似する点も明らかになった。 また、地中海世界と対峙するイングランド人としてのプロスペローについては、テクストの精読と二次資料の参照を中心として分析を進めた。プロスペローの魔術が魔女メディアの黒魔術と類似する点などを分析し、彼が地中海世界の黒魔術をいかに島の再生のための魔法へと変え、地中海世界の再構築を試みているかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の始めに執筆を進めていた『冬物語』に関する論文の完成が遅れたため、論文の投稿を次年度に持ち越すこととなった。それに伴い、『テンペスト』に関する研究も進展が遅れ、プロスペローについての議論を補強するためにさらなる調査が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き『テンペスト』の分析をおこない、プロスペローの役割についての議論を発展させたい。そのためには地中海世界と対峙する初期近代イングランド人に関する資料を参照し、地中海の島を支配するプロスペローとの類似点をより深く探りたい。
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Causes of Carryover |
海外調査のための航空チケットが昨年度よりも安価に購入できたため、想定よりも予算に余裕が生じた。一方で、議論の補強のためにさらなる調査が必要となったことから、未使用分は次年度の書籍購入費として使用する予定である。
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