2022 Fiscal Year Research-status Report
日系オーストラリア文学の可能性を考察する―第二次世界大戦時強制収容体験を中心に
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22K20008
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
古川 拓磨 大谷大学, 文学部, 助教 (40962270)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 日系オーストラリア文学 / 日系文学 / オーストラリア文学 / 日系人強制収容所 / 第二次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで看過されてきた第二次世界大戦中のオーストラリア日系人強制収容所に関する文学を対象とする。アジア太平洋地域に拡散していた「日系人」たちがさまざまな民族的・地理的な出自背景をないがしろにされ、オーストラリアの「敵性外国人」として強制収容された事実は、研究蓄積の多いアメリカやカナダのケースと均質化することなく、比較して論じる必要があろう。近年、Cory TaylorやChristine Piperといった必ずしも日本にルーツを持たない作家が日系強制収容を描いている。これらの作家の作品を通して、地域、世代、人種・民族を超越して共有される日系強制収容の物語の展開を明らかにする試みは、決して一元化しえない多様な日系人の記憶の再考を促進し得る。 2022年度は、主な日系オーストラリア文学作品の資料収集や作品分析に費やした。分析した作品はTaylorによるMy Beautiful Enemy、PiperのAfter Darknessである。Taylor作品では白人同性愛者の看守が、Piper作品では日系人医師というエリート人物が、語り手に設定されており、社会階級、ジェンダー、民族などの交差的影響に着目しながら分析を進めた。並行して、オーストラリアと同じく太平洋地域に位置する「島」という観点からハワイの日系人作家Juliet Konoについて検討し、日本アメリカ文学会にて口頭発表を行った。 また2023年2月に、シドニー博物館、オーストラリア国立博物館、国立公文書館、タツラ灌漑・戦争時強制収容所博物館などで資料の閲覧および収集を行った。タツラ博物館では、収容所元看守のJ.S.氏が収容所の様子を記した私家版の手記(絶版)に目を通すことができた。また同博物館では北米の場合と同様、オーストラリア強制収容所内でも文芸活動が行われていたという事実を確認した(残念ながら刊行物は未収蔵)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨今の世界情勢により、海外からの資料取り寄せに遅延が見られた。またオーストラリアでの現地調査においても、博物館などの開館時間や地理的要因により資料閲覧時間を十分に確保することができなかった。さらに科研費採択時期が年度中旬のため、現地調査実施時期を年度末に設定するほかなく、成果を年度内に発表する十分な時間を取ることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(研究最終年度)は、すでに収集した資料の分析を進めTaylorおよびPiperのそれぞれの作品における、第二次世界大戦時のオーストラリア日系強制収容所と社会階級、ジェンダー、民族などの交差的影響に着目した論文を執筆する予定である。 また現地調査を行う際には、前年度の反省を踏まえ、訪問場所を限定することで一箇所に長時間滞在し調査時間を確保する。特に強制収容所内での日系人による文芸活動に関する資料を収集したいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究計画時に概算で見積もっていた物品費(特に書籍)の価格に変動があったため、2436円の差額が生じている。以上の差額は次年度に繰越し、図書などの物品費購入に充てる予定である。
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