2022 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study on the History of the Writing System of Standard Russian, Ukrainian, and Belarusian Languages
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22K20013
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清沢 紫織 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 非常勤研究員 (80962810)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ロシア語 / ベラルーシ語 / ウクライナ語 / 標準語史 / 言語イデオロギー / 正書法 / 文字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の実施にあたっては1)3言語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題、2)ウクライナ語・ベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題、3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題という3つの具体的な研究課題を設定しそれぞれの問題の考察を進めてきた。 本年度は、ロシア軍のウクライナ侵攻が収束しなかった影響で、研究対象地域であるロシアとウクライナ、更にロシアと政治的関係の強いベラルーシでの現地調査・資料収集は実施できなかったが、関連する文献の精読と入手済みの資料の考察を地道に進め、成果の取りまとめを行い、特に1)及び2)の課題に集中的に取り組んだ。まず1)をめぐる研究成果として、ロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語の3言語のラテン文字化の問題について戦間期に焦点をあてて比較考察を行い、その研究成果の一部を北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターとロシア学士院スラブ学研究所との国際共同セミナー、The17th annual meeting of the Slavic Linguistics Society、ロシア・東欧学会 2022年度研究大会にて報告した。また2)の研究課題に関しては、特にベラルーシ語をめぐる問題について、北海道スラブ研究会および第8回北大・部局横断シンポジウムにて研究成果の発表と意見交換を行った。 さらにベラルーシ語の書記体系の発展を考察する上で重要なベラルーシ人の宗教的帰属意識と言語イデオロギーの関係を扱った最新の研究書Conversation with God (Ewa Golachowska 2020)の書評をActa Slavica Iaponicaの第43号にて発表したほか、アウトリーチ活動として公開シンポジウム「ウクライナ・ベラルーシにおける多言語文化」に招待されベラルーシの言語文化について講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、本研究を成す3つの研究課題のうち、特に1)3言語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題、2)ウクライナ語・ベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題について集中的に研究を進めてきた。 1)の課題に関しては、まずロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語それぞれの現代標準語の形成過程で書記体系、特に使用文字をめぐる状況がどのように進展したのかについて18~19世紀の状況を標準語史の整理をしながらまとめを行ってきた。さらにその上で、20世紀に入り3言語の使用地域の広範な領域が含まれることとなったソヴィエト連邦にて、1920年代に政治的に打ち出されたラテン文字を「革命の文字」とみなす言語イデオロギーが3言語のラテン文字化の議論をほぼ同時期に呼び起こした状況を比較考察した。以上のようにこの課題に関しては大きく研究が進み、現在この成果を論文としてまとめている。 2)の課題に関しては、ベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題に関してはこれまでの自身の研究蓄積に最新の言語状況の動向を踏まえてまとめを行い研究成果として口頭発表を行ってきた。一方で、ウクライナ語に関する同問題の考察は、現地での資料収集が困難であった影響で関連する文献資料が不足しており、辛うじて入手済みの文献についてもまだ精読を進めている段階である。 また、3つ目の研究課題である3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題については、今年度は1)の課題についての研究に時間を要したために、特にロシア語とウクライナ語をめぐる状況についてはまだ本格的に考察に着手できていない。以上のような状況から、課題1)に関しては予定通りに研究が進んでいるものの、課題2)と3)についてはややその進展が立ち遅れているため、次年度に集中的に取り組む必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる来年度は、本研究の3つの主要課題それぞれについて以下のような方策で研究を進めていく。 まず、1)3言語の文字体系成立過程におけるラテン文字使用をめぐる問題については、今年度大きく進展のあった研究成果をさらに精緻化しつつ投稿論文という形でその研究内容をまとめ、成果としての公開をめざす。 2)ウクライナ語・ベラルーシ語の正書法の確立における言語純化主義の問題については、これまでに研究の立ち遅れているウクライナ語をめぐる状況について集中的な考察を行い、既に研究を進めてきたベラルーシ語をめぐる状況との比較考察へと発展させる。 3)3言語の書記体系選択における少数派の生存戦略の問題については、特に研究の立ち遅れているロシア語とウクライナ語の状況について、1)の研究成果における標準語史の再考の内容を活かしつつ関連する文献資料の精読・考察を進め、既に研究蓄積のあるベラルーシ語をめぐる状況との比較考察を行っていく。 2)と3)の課題についてはそれぞれ学会発表にて研究成果の中間報告を行い、さらにそれを踏まえて投稿論文としてまとめ広く公開することをめざす。なお、ウクライナ語に関する研究資料の不足についてはポーランド等の隣国やウクライナ人移民の多い北米などで利用可能な資料をリスト化しそれらの入手と精読・考察を進め研究成果のとりまとめを行う。
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Causes of Carryover |
本研究の研究計画を立てた当初は、ロシア軍のウクライナ侵攻による戦争状態が1年以内には収束することを見込んで現地での資料調査実施を計画に含めており、その可能性を探ってきた。しかし、実際には想定以上に戦争状態が長期化しており、ウクライナとロシア、更にロシアと政治的関係の強いベラルーシは外務省から退避勧告・渡航中止の地域として指定を受けており、研究対象地域での直接の現地調査・資料収集は実施が困難であった。そのため、現地への渡航旅費として使用する予定だった研究費は次年度に繰り越さざるをえない状況であった。 次年度も、ウクライナにおける戦争状態の収束が見通せないことから、現地での資料調査をウクライナの隣国ポーランドやウクライナ人移民の多い北米などに対象を切り替えて実施することを計画している(海外資料調査40万円×2件)。また残った研究費は、日本国内から手配可能な関連文献の購入や研究成果公開のための英文校閲費に充てることを予定している(文献購入費10万円、英文校閲費13万円)。
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