2023 Fiscal Year Research-status Report
同時代文脈を踏まえた近世前中期書簡体小説の再検討:書簡体小説史の再構築に向けて
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22K20014
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
岡部 祐佳 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (10965081)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 書簡体小説 / 近世文芸 / 艶書小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度も、昨年度に引き続き『宇津山小蝶物語』の翻刻・読解と、西村本『小夜衣』の注釈・読解という二つの作業を行い、以下の成果を上げた。 『宇津山小蝶物語』については、全文の翻刻を完成させ、所属先の紀要『アルテス・リベラレス』誌上にて公開した。これにより、従来誤りや抜けがあり大量の伏字が施された翻刻しか備わっていなかった本作品の全容を明らかにすることができた。 また、本作品のタイトルと最終場面が、『荘子』「斉物論篇」にみえる「胡蝶の夢」の故事を基にしていることを指摘した。とくに最終場面では、源七という登場人物の口を借りて、万物の斉同を説く荘子「斉同論」の思想が表出されていた。深い理解に基づいているかについては慎重に考える必要があるものの、本作品が荘子思想の影響を受けていることを明らかにすることができた。それまでの多くの書簡体小説が仏教思想の影響を、享保期の書簡体小説が儒教思想の影響を色濃く受けていることを踏まえると、本作品にみえる荘子思想の影響は書簡体小説史上における本作品の特筆すべき特徴であるといえよう。 西村本『小夜衣』については、巻4の途中まで概ねの注釈をつけることができた。次年度中にすべての注釈作業を終え、その成果を紀要等に投稿する予定である。 また、これまで仮名草子『錦木』の模倣作という以上の価値を見出されてこなかった本作だが、注釈を行う過程で両者の相違点が浮き彫りになってきた。特に作品構造については、『錦木』より『小夜衣』のほうが、配列の上で整ったものになっていると考えられる。この点については次年度により詳しい調査を行い、研究発表・論文執筆を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
想定よりも授業準備や校務等に時間がとられ、本研究に割くエフォート率が低くなってしまったことが、遅れの最も大きな要因である。また、これまで仮名草子『錦木』の単なる模倣作とみなされてきた西村本『小夜衣』が、その細部において『錦木』とは異なる性質・方向性を持っていることに気が付き、より慎重に細かく分析する必要があると考えたため、注釈作業にも時間を要することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、主に以下の作業を中心に行う。 ①西村本『小夜衣』の注釈完成・公開。②西村本『小夜衣』と先行作『錦木』の相違点について、作品構造および本文内容の点から考察し、その成果を研究発表および投稿論文にまとめる。③②の考察を基に、短編集形式の作品の流れの中における本作品の位置づけを検討する。 なお、以上の作業と並行して、書簡体の西村本浮世草子『花の名残』を読み進めていくことも予定している。
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Causes of Carryover |
現在までの達成度の「理由」に示したとおり、研究の進捗にやや遅れが生じたために予算に残額が生じた。また、古典籍のデジタル公開が進み、申請時点では所蔵先に赴かなければ閲覧できなかった資料のうち、現在はWeb上で画像閲覧可能となったものが多数ある。そのため、申請時点の想定よりも調査旅費に割く費用が少なく済んだ点も理由として挙げられる。 令和6年度には、①未だデジタル公開されていない資料の調査と複写費、②西村本『小夜衣』に関する研究発表に係る旅費、③西村本『小夜衣』の注釈公開に係る執筆費などとして、残りの予算を使用する予定である。
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