2022 Fiscal Year Research-status Report
オウィディウス『恋の技術』及び『恋の治療法』における「環」のモチーフ
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22K20022
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹下 哲文 京都大学, 文学研究科, 助教 (80965327)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | ラテン文学 / 恋愛詩 / オウィディウス / 『恋の技術』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主として文献の調査と収集を行った.研究課題に関係する書籍中,研究機関に所蔵されていないものや比較的新しい文献(とりわけArsのLenz版,Pianezzola版,RemediaのRimell版)を入手し,研究課題上問題となる箇所の異同と注解を調べることができた.また,計画段階で把握できていなかった,恋愛詩人・教訓詩人としてのオウィディウスの独創性を幅広く扱ったM. Labateの研究(L’arte di farsi amare: Modelli culturali e progetto didascalico nell’elegia ovidiana)を知ることができたのも,ひとつの収穫であった. 都市(urbs)と世界(orbis)との間に生まれる疑似語源的つながりが,『祭暦』の有名な個所(2.683-684)にとどまらず,本研究課題で中心的に取り扱う『恋の技術』においても大いに役立てられていること,またそれにとどまらず語彙の面でも叙述構造の面でも「環」のモチーフが見られること,これらを裏付ける詩句の捜索がおおよそ完了した. 自らも恋愛詩人としてキャリアを開始してこのジャンルの伝統を吸収したうえで,恋の「技術」を教えるという主題設定により従前の恋愛詩人たちを一面ではパロディ化しながらも,「世界の中心」としての力を確実なものにして安定を迎えたローマの都市的活力を,「恋愛の場」を支える者として再評価するオウィディウスの試みにおいて,上記のモチーフが果たす役割を正確に言語化していくことが以降の課題となる.状況としては,論文執筆のための基本的土台が整いつつあるところである. なお,本研究課題とはごく間接的にしかつながりをも持たないが,短論文を一報掲載することが出来た点も申し添えておく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一部の文献の入手が難航したため,内外の研究状況把握に当初より遅れが生じた.研究計画全体に致命的な影響はないものと思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
「環」や「都市」「劇場」のモチーフについての調査は先述のとおりおおむね完了している一方で,叙述構造としての環,いわゆるring-compositionの存在と活用方法については,まだかなり調査を残しているので,これを年度の早い段階で完了する必要がある.年度全体としては,現段階で作成した論文草稿をもとに,口頭での研究発表などを経て,投稿可能な完成稿を作ることが次年度の主たる作業内容となる.また,その過程でさらに必要な文献が判明した場合にはその入手と読解も並行して行うことになる.
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Causes of Carryover |
年度内に輸入した書籍の送料に一部返金処理が発生したため.
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