2022 Fiscal Year Research-status Report
周辺部におけるスペイン語呼びかけ表現に関する語用論的研究
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22K20027
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野村 明衣 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (00962854)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 脱意味化 / 脱範疇化 / 注意喚起 / 語用論的機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、主に5つの動詞の命令形式の呼びかけ表現(oye, mira, escucha, fijate, imaginate)について、脱意味化の程度とその語用論的機能を考察した。研究成果として主に次の二点を挙げる。 Heine (1993)によると、文法化の段階である脱意味化、脱範疇化には目的語や補語をとらなくなるという特徴がある。この記述をもとに、スペイン王立アカデミーによるコーパス(CORPES XXI)を用いて戯曲・映画脚本から用例を収集し、5形式が目的語、修飾語や補語をとる割合を調査した。全3332例を分類した結果、oyeは用例数の約97%が目的語や修飾語をとらず、脱意味化を超えてすでに範疇化の程度がかなり高いこと、他の4形式は脱範疇化した用例と語彙的意味を残し分岐化した用例の割合が半数ずつであった。これは、「文法化して注意喚起の機能を持つ」と5形式を同列に扱っている先行研究の記述を再検討する必要性を示している。 また、これまで言いかえ可能とみなされていたoye, mira, escuchaの語用論的機能を明らかにするために、スペイン語母語話者を対象に3つのアンケート調査を実施した。第一のアンケートは、ある文脈でoye, mira, escuchaに続く発話を作成してもらう談話完成タスクで、この結果からこれまで詳しく扱われていなかったoyeとmira、miraとescucha、escuchaとoyeそれぞれの共通性に関して仮説を立て、第二のアンケートである言いかえ調査によってこの仮説を検証した。さらに第三のアンケートでは、コーパスで得られたデータをもとに、escuchaの機能を裏付けるための統語的特徴に関する調査を行った。3形式の機能は、文法化の程度差はあれ、語彙的意味に依存して、異なるプロセスから聞き手を後続発話に導くものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度11月に実施したアンケート調査により、命令形式の呼びかけ表現に関しては量的研究と質的研究の両方で有益な結果を得ることができた。具体的には、oye, mira, escuchaの機能差は、受動的知覚か能動的知覚かに起因し、さらに視覚と聴覚で語用論的機能に差異が生じることを意味論的なアプローチによって解明した。 この研究結果を12月に九州大学言語文化研究院主催の認知語用論研究会で口頭発表し、加筆修正を加えた論文を日本イスパニヤ学会の機関誌である『HISPANICA』に投稿し、現在査読中である。 また発展的な研究内容として、6月にはスペイン・カディス大学で開催される待遇表現の対象研究に関する国際学会(IV Congreso Internacional Formas y fo;rmulas de tratamiento en el Mundo Hispano-Luso)において 、oye, mira, escuchaとその待遇表現であるoiga, mire, escucheの文法化の程度を比較し、日本語終助詞「ね」「よ」との対照研究の可能性について口頭発表予定、8月には同国ブルゴス大学で開催される外国語としてのスペイン語教育に関する国際学会(33 Congreso Internacional de la Asociacion para la Ensenanza del Espanol como Lengua Extranjera)にて、日本人のスペイン語学習者に対するoye, mira (escucha)の教授法について口頭発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度に実施予定の動詞の疑問形式の呼びかけ表現については、すでにデータを収集し、すぐに調査を開始できる状態である。 呼びかけ表現の位置による機能について考察する際に、コーパスで得られた用例の句読点の位置に恣意性が見られた。これを排除するために、発話内の位置の判断は句読点ではなく、「行為(acto)」を単位とし、その前後どちらに置かれているかで分類する必要がある。現在、この基準で全データの再分類を行なっている。 令和5年5月に第二回アンケートを実施し、疑問形式の呼びかけ表現の機能比較、呼びかけ語との共起の可能性について調査する予定である。
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Causes of Carryover |
令和5年度にスペインで開催される国際学会2件(6月カディス大学、8月ブルゴス大学)にて口頭発表予定のため。
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