2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K20029
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
数森 寛子 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (10588239)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 死生観 / スピリティスム / 19世紀 / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
22年度は、本研究の基盤となる資料の調査を中心とする研究を行った。具体的には、研究を遂行するために必要となる19世紀文学に関する先行研究、および第二帝政期の宗教政策やカトリック教会に関する主要な先行研究を精査した。初年度の研究を進めていく中で、本研究を発展させるためには、歴史学および社会学的知識が不可欠であることを再認識し、当初の予定よりも、資料調査の範囲を拡大した。本研究は、ロマン主義時代の文学作品が、どのように同時代および第二帝政期の死生観の形成に影響を与えたのかを明らかにすることを目的とし、多岐にわたる資料や関連研究の中から、この研究目的を達成するために必要となる文献を画定し、その調査にあたることに専念した。 まず、本年度の研究では、第二帝政期に、フランスでスピリティスムが大流行するにいたるまでの経緯を、参考文献の調査から確認し、個々の作家が、それぞれどのような方法でスピリティスムを受容したのかを明らかにした。また、並行して、こうしたスピリティスムの流行に対し、カトリック教会がいかなる対応をしたのかを調査し、その概要を把握することができた。ところで、第二帝政期は、カトリックが大いに勢いを取り戻した時代でもある。初年度の研究では、カトリックという伝統的な宗教への回帰と、スピリティスムという、特定の宗教に対する信仰心をもたない人々の関心を強くひきつけた新興の「宗教的なもの」への傾倒が、同時代的な現象として起こっていたという事実を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するために必要な資料の調査を順調にすすめることができた。国内外の主要な先行研究を参照し、また調査の過程で、新たに重要な資料を見つけることができた。本年度は、当初の目的に沿って、文学作品が死生観の形成にどのように関与したのかを明らかにするために、多様なテキストの収集、調査を行ってきたが、その過程で、作家自身の死生観それ自体に、より踏み込んだ分析を行う必要性が明らかになった。そこで、作品にどのように死生観が現れているかを考察するだけではなく、より直接的に、作家が、人間の魂のあり方や、死後の生について論じているテキストを、重点的に調査の対象に含めることにした。 また、本研究は、現在までに、ロマン主義時代の文学作品が、第二帝政期において、人々の精神世界への傾倒という現象が生み出されるにいたる思想的な基盤となっていることを明らかにしつつあるが、そのために、当初は、ロマン主義時代の文学作品の精査に主眼をおいていた。しかし、多くの文献を参照していく中で、19世紀前半の時代の文学作品に加え、第二帝政期の文学作品も、合わせて調査することが不可欠であることに気がついた。なぜならば、第二帝政期の文学に、どのようにロマン主義時代の文学の思想が反映されているか、あるいは、そこで、前時代の文学がどのように批判的に継承されているかを考察していくことが、第二帝政期とロマン主義時代との、思想的な連続性を明らかにするために、極めて重要な手がかりとなるからである。 このように、当初よりも研究の射程が大きく広がったため、これまでに得られた成果を整理しておく必要がある。そのため、初年度の研究の成果を論文の形でまとめた上で、愛知県立芸術大学の紀要に投稿する予定であり、現在はその準備にあたっている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、引き続き文献の調査を中心に研究を進めていく。初年度の研究により、研究の射程が当初よりも大きく広がったため、調査するべき資料が予定よりも大幅に増加した。そこで、研究に専念する時間を予定よりも増やしたいと考えている。 初年度は、専門分野の異なる多様な文献の調査を行ってきたが、次年度は、19世紀前半の時代に書かれた文学作品とその書評を分析することを中心に行い、フランスにおいて、ロマン主義以降、死のイメージが大きく変化したことを明らかにしたい。また、前年度の調査の結果と、文学テキストの読解とを総合し、ロマン主義文学が19世紀後半の社会に与えた影響を精査する予定である。それにより、多くの作家や知識人が降霊術に没頭し、大衆がカトリックの「奇跡」に熱狂するという、二つの現象を生み出した、第二帝政期の思潮の特殊性を考察し、19世紀における死生観の変容を浮き彫りにしたいと考えている。 具体的には、2023年度は、スピリティスムに強い関心を示した作家や知識人たちは、人間の生と死をめぐるある特殊な思想的基盤を共有していたのではないか、という問題意識から出し、19世紀フランスにおける死生観の変容を探る。そのために、カトリックの教義から逸脱した死後の世界のあり方が、ロマン主義文学の中ですでに模索されていたことに着目する。それは、人間は死によってはじめて、生前には生きることのできなかった、本来の「生」を取り戻すという思想である。加えて、19世紀前半の時代に流行した、墓地巡礼旅行にも注目しながら、フランスにおいては、ロマン主義以降、死のイメージが大きく変化したことを明らかにしたい。研究の成果は、愛知県立芸術大学の紀要論文として総括する予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度中に予定していた研究会が自身の体調不良により断念せざるを得ず、そこに係る謝金、および既存備品の活用により不要となった物品費等により、次年度使用額が生じた。 これらの費用は、引き続き本研究課題に係る研究時間確保のため、バイアウト制度の利用に充てたいと考えている。
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