2022 Fiscal Year Research-status Report
カリブ文学における雑種性の根源としての「遭遇」の偶然性の観点からの分析
Project/Area Number |
22K20031
|
Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 達 千葉工業大学, 社会システム科学部, 助教 (50964053)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | カリブ海文学 / クレオライゼーション / 偶然性 / 存在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カリブ海地域において奴隷制や年季奉公を通して強制的に他者と「遭遇」するという否定的偶然に、カリブ海の雑種性・複数性の根源を探り、カリブ海特有の存在論の可能性を見出すことを目的としている。 初年度の2022年度に行ったのは、英語圏のウィルソン・ハリス、仏語圏のエドゥアール・グリッサン、そしてスペイン語圏のアントニオ・ベニーテス=ローホーといったカリブ海思想家たちの作品における、偶然性に関する記述を整理する作業である。彼らの理論はポストモダンの観点から分析が行われてきたが、様々な人種がカリブ海で経験する「遭遇」を彼らがどのように論じていたかについては体系だった研究が行われていない。この作業によって、彼らが言語圏の相違を越え、いかにカリブ海思想における人種間の「遭遇」を否定的にではなく肯定的にとらえ、カリブ海の共通の経験として描いているかを確認することができた。この作業から得られた見地は、研究の標的のひとつであるローレンス・スコットの作品の分析に役立てることが期待できる。 初年度はこの作業をさらに発展させるために春期休暇中に渡米し資料調査を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響により断念し、日本で資料を集めることに集中した。確保できた書籍を読み込むことで、風景や記憶といった「遭遇」を考察するための重要な視座を得ることができた。この視座から、スコットの作品のみならず、ジョージ・ラミングなどカリブ海作家たちの作品の比較研究的な調査にも着手している。2023年度には引き続きカリブ海思想における「遭遇」の言説を検討しつつ、成果を論文にまとめ、発表したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に必要かつ入手可能な資料や書籍は、概ね確保できたと思われる。そして上記「研究実績の概要」で記したように、当該年度に予定していたハリス、グリッサン、そしてベニーテス=ローホーによるカリブ海思想の言説の整理は行うことができた。新型コロナウイルスの影響によりアメリカでの資料研究はできなかったが、本研究の土台を固めることができたことを鑑み、「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の課題として、ハリス、グリッサン、ベニーテス=ローホーたちの作品分析から得られた見地と、それに並行して集めた資料を読み込むことで見つけることのできた視座を接続する作業と検討が挙げられる。そして、上記「研究実績の概要」に示したように、スコットの小説の比較分析も進める。 2023年度にはジャマイカで英語圏カリブ海文学の国際大会が開催される予定であり、そこで本研究の成果を発表することを目標としている。例年この大会にはカリブ海文学の専門家が集まっており、彼らとのディスカッションが期待できる。最新の研究に関する情報交換を行うよう努めたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、渡米して資料を研究する計画を断念したためである。次年度の書籍確保のために使用することを計画している。次年度にはジャマイカで開催される国際大会に参加する予定であり、そこでの資料を確保するためにも使用することを計画している。また、成果として論文が採用された場合、オープンアクセス出版のために費用を使用することを検討している。
|