2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22K20038
|
Research Institution | Morioka College |
Principal Investigator |
鈴木 真太朗 盛岡大学, 文学部, 准教授 (40962452)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | イロニー / 死の自覚 / 人間の尊厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀フランスを代表する科学者・護教家として知られるブレーズ・パスカルが用いた説得術の特質を、文体・修辞・論理構成といった三つの観点から明らかにすることを目的として進めてきた。 イエズス会を先頭とするポール・ロワイヤルへの攻撃に反駁するための論争書簡である『プロヴァンシアル書簡』(1656-57年)と(未完の「キリスト教護教論」あるいは)『パンセ』(初版1670年)はいずれもパスカルの代表作として知られるが、両作品の方法的(非)連続性に着目した先行研究は限定的である。そこで本研究は、上述の三つの観点から両作品を横断的に分析することにより、両作品に共通して見られる説得術と『パンセ』でのみ発現する説得術の特徴の一端を析出した。イロニーと呼ばれる修辞技巧の論証上の機能について両作品を比較した際には、『パンセ』ではより複雑かつメタ的にこの技巧が使用されており、ここに古典修辞学のパスカル独自の応用例が見られるという点を指摘した。 最終年度はパスカルの思想と説得術の特徴をより客観的に評価するため、その文体に多大な影響を与えた前時代の思想家モンテーニュと、同時代の護教家ボシュエに考察対象を広げた。「死の自覚と人間の尊厳の関係」というテーマに絞り、モンテーニュ『エセー』(1580年)、ボシュエ『死についての説教』(1662年)、『パンセ』を材として、三者の思想と説き方を比較した結果、パスカルの最大の特徴はやはり、論証の内容もさることながら、「説得術」でもって読者に訴えかけるという点にあるという考察に至った。この点は、パスカルの他の著作や同時代の科学者・哲学者・護教家の著作において深く考察を加えていくべき問題として、今後引き続き研究する。 上記の研究成果については、パスカル生誕400周年を記念してパリで開かれた国際学会をはじめ、国内外の学会・研究会で報告したほか、一部を論文にまとめた。
|