2022 Fiscal Year Research-status Report
日本戦国期における一揆と地域社会の関係に関する研究:畿内近国に視点を置いて
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22K20046
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
水林 純 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (30961990)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 戦国期 / 村落 / 土豪層 / 地域権力 / 一揆 / 国衆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、以下の二点を大きな柱としている。(1)戦国期畿内周辺の在地社会に形成された一揆について、その形成から解体に至る過程を解明する。(2)戦国期畿内周辺に形成された、土豪層の一揆の役割と特質を、他の地域・権力との比較的視点を活かしつつ解明する。以上の内、2022年度は、(2)の目的にアプローチすべく、伊勢国一志郡小倭郷と、駿河国駿東郡口野郷(口野五ヶ村)に関する研究を実施した。前者は、15世紀末から16世紀、土豪層の一揆的結合による地域統治が行われた場として、後者は、16世紀中葉から末期にかけて、戦国領主(国衆)葛山氏、次いで戦国大名北条氏による在地支配が展開された場として有名である。研究の結果、下記の二点に述べる通り、大きな成果・実績を得ることができた。 (ⅰ)15世紀末に小倭郷で形成された二つの一揆(土豪層の一揆、百姓層の一揆)を検討の俎上に載せた。その結果、小倭郷の土豪層は、独自の私領支配を各々に展開する自律的な小規模領主であったこと、彼らは、その私領支配をめぐる彼ら相互の争いを判定的に解決するための法秩序を自力で実現しようとしていたこと、そのあり方は、近世への移行過程で存立の余地をなくしてゆくであろうことを解明・展望することができた。この成果は、中世史研究会50周年記念大会における個別報告において発表しており、また、近日、学会誌『年報中世史研究』48号に公表予定である。 (ⅱ)16世紀中葉から末期にかけて、葛山氏次いで北条氏の支配を受けた、口野五ヶ村の土豪植松氏についての研究を実施した。具体的には、自律的な小領主としての性格を有した植松氏が、上部の地域権力の影響下で、代官・名主としての性格を強めてゆく過程を、先行研究以上に精緻に跡付けることができた。この成果は、現在査読付き雑誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】で述べた通り、伊勢国一志郡小倭郷および駿河国駿東郡口野郷を対象とした研究について、特筆すべき成果を得ることができたため、「おおむね順調に進展している。」との評価である。ただし、本研究の計画の一つにあった、紀伊国(現和歌山県)に関する分析は、2年目において集中的に進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
「湯橋家文書」、「和佐家文書」、「隅田家文書」、「葛原家文書」など、紀伊国北部(現和歌山県和歌山市、橋本市周辺)の在地領主家文書の内容整理と分析を早急に進める。 また、それと並行して、近江国の同名中組織(在地領主・土豪層の一揆的結合)に関する分析も前に進めるべく、「山中文書」、「大原勝井文書」、「小佐治文書」の検討を行ってゆく所存である。
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Causes of Carryover |
当初、次年度使用額に相当する分の経費は、謝金に充当する予定であった。具体的には、中世後期・戦国期紀伊国(現和歌山県)の在地社会に関連する史料の目録整理(『和歌山県史』等自治体史所収の中世文書の内容整理)を所属先機関の大学院生に依頼し、その作業に応じた謝金を支払うことを予定していた。ただし、研究の遂行課程において他のフィールド(伊勢国一志郡小倭郷および駿河国駿東郡口野郷)に関する重要な知見を得られたため、その成果を早急に論文にまとめることが先決と判断した。ゆえに、1年目は、戦国期の伊勢国および駿河国を対象とした論文をまず執筆の上、その原稿を学術雑誌に寄稿・投稿する作業に注力した。それにともない、当初1年目に予定していた紀伊国に関する史料目録整理の作業は、2023年度に持ち越すこととなり、あわせて目録整理作業にかかる謝金も2023年度に繰り越すことを決定した。 2年目において、次年度使用額は、上述した、史料目録整理にかかる謝金に充当する。その他2023年度分として請求した助成金は、当初の予定通り、消耗品費、国内旅費、人件費・謝金に当てる予定である。
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