2022 Fiscal Year Research-status Report
1960年代から70年代のトルコ共和国における国民像の転換と宗教教育
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22K20053
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
上野 愛実 岩手県立大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60964723)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | トルコ共和国 / 政教関係 / 国民形成 / 宗教教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代から1970年代のトルコ共和国に注目し、国家がどのようにしてそれまでの「世俗的なトルコ人」から敬虔な「ムスリムであるトルコ人」へと、あるべき国民像の転換を図ったのかを明らかにすることを目的としている。そのために、こうした国民像の転換につながった政治的経緯と、そうした国民像を浸透させるための主要な媒体となった宗教教育に注目し、トルコ人の国民性とムスリムであることの親和性がどのような形で宗教教育の内容に反映されたのかを検討するものである。本年度は、そうした国民像の転換の政治的経緯に迫るべく、1960年代から1970年代の政治家および知識人たちが、宗教教育および国民形成に関してどのような議論を行っていたのかを調査した。具体的には、トルコ大国民議会の議事録、国民教育省諮問会議の議事録、政党機関紙を含む複数の日刊紙を主な史料として用いた。調査にあたっては、トルコ共和国の国民形成に関する議論の背景となる、政治家たちの経歴、思想、宗教に対する理解を検討した。また、関連する行政機関として、国民教育省および宗務庁の関係者たち、そして、次年度に扱う予定である宗教教育科目の教科書執筆陣へも焦点を当て、彼らと政治家たちとの関係や、経歴の類似点、政治的思想、宗教への理解も検討した。これにより、宗教をめぐる政策上の国民像の転換が、どのような人的つながりと議論のもとに実現されたのかを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように、本研究は、トルコ共和国政府による国民形成のなかで、あるべき国民像のなかにイスラームがどのように取り入れられていったのかを明らかにすることを目的としており、その一環として、初年度においては、そうした転換の背景にある政治的議論、政治家と知識人の思想や経歴に注目することを計画していた。本年度は、およそ7ヶ月という研究期間のなかで、計画に必要な資料を調査・収集するべく、トルコ共和国のイスタンブルおよびアンカラにおいて短期調査を2回、行った。そのなかでは、議事録や日刊紙、当時の知識人や政治家たちの執筆した日記や著書等の収集を進めたのに加え、近年、トルコ共和国において新しく公開され始めた行政文書を調査することもできた。ただし、依然として続くコロナウイルスの蔓延防止の対策上、当初、予定したよりも調査期間が短いものとなり、各調査に際して十分な日程を取ることができなかったため、資料収集にやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に引き続き、収集した資料の読解を進めるのに加え、国民性の転換の媒体となった宗教教育に注目し、学習指導要領や教科書等、関連資料を収集するべく、トルコ共和国にて短期調査を行う予定である。そして、それらの資料の読解を通じ、前年度に調査した内容と合わせて、1960年代から70年代において、トルコの政治が国民形成との関連で宗教をどのように扱ってきたかを検討する。次年度は、その内容をまとめ、研究成果の発信に努める。具体的には、次年度後半期に研究発表を行い、発表へのフィードバックを踏まえ、論文を執筆し、学術雑誌に投稿することを計画している。
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Causes of Carryover |
依然として続くコロナウイルス蔓延防止の対策上、報告者の勤務する本務校では本年度においても、海外渡航後に2週間、自宅待機を行うことが規定されており、自宅待機期間を確保する必要上、海外において資料調査を行う期間を当初の予定よりも短く設定せざるを得なかったため。また、社会・経済状況により、報告者の研究対象とするトルコ共和国においては、以前に比べ物流の速度に遅れが生じており、当初計画していたよりも、トルコ共和国にて出版されている図書の到着・購入の手続きが滞っているため。次年度においては、資料調査・収集のための海外渡航に関して、本務校の規定を注視しながら、可能な限り必要な時間をとり、夏季および冬季に資料調査を行うことを予定している。また、図書の購入に際しては、上半期に集中して注文することを計画している。
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