2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K20054
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
多賀 良寛 東北学院大学, 文学部, 講師 (20963391)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 開港 / 阮朝 / ハイフォン / 茶里 / 海関 / 銅 / 交易秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1874年に阮朝とフランスとの間で締結された第二次サイゴン条約による北部ベトナムの開港について、下記の諸点に着目して研究を進めた。 まず、開港が在来交易秩序に与えた影響を明らかにすべく、開港場に指定されたハイフォンとともに、当時非開港場ながら多くの華人商人を引き付け繁栄していたタイビン省の茶里港の交易状況を検討した。これにより、対外交易をハイフォンに集約させるため、フランスが茶里を含む非開港場でのジャンク船貿易に強い圧力をかけていたことを立証した。 次に開港場に出現した新しい交易管理システムを解明するため、仏越が合同で管理する海関の分析に取り組んだ。分析の結果、海関のスタッフ構成、収入規模および運営をめぐる仏越の様々な対立を浮かび上がらせることができた。 そのうえで、海関で記録された輸出入統計を利用し、開港による交易パターンの変化を検討した。その結果、開港の後、ハイフォンには香港経由で日本銅が輸入されており、その一部が阮朝の鋳銭事業に利用されていたことが明らかとなった。ここから、17世紀に行われていた日本銅の輸入が、18~19世紀前半の中断を挟んだのち、開港によって再び活性化したことを解明した。 以上の分析を進めるにあたり、既存の漢文・フランス語文書に徹底的な分析を加えたほか、ハノイにある国立第一公文書館で阮朝の行政文書を閲覧・複写した。また研究成果の一部を、2022年10月に開催された国際学会(International conference “FROM THE PORT TO THE WORLD:A Global History of Indochinese Ports)において、英語で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的のうち、1)開港による在来交易秩序の変化 2)開港場における交易管理体制および、3)開港後の輸出入パターンという重大なテーマについて、具体的な分析結果を得ることができた。とくに従来の研究がほとんど指摘していなかった茶里港の歴史的重要性や、日本銅の輸入復活といった点を明らかにできたのは、大きな成果といえる。 既存史料の分析は、阮朝の行政文書である「阮朝シュ本」およびフランスの領事報告の読解を中心とし、やはり充実した成果が得られた。新規史料の開拓という面では、ハノイの国立第一公文書館および漢喃研究院で、開港期のベトナムに関する大量の未公刊漢文史料を収集した。これらは、今後の研究遂行に向け重要な資料基盤となるであろう。これに加え、ハノイ滞在中は市中の書店やベトナム国家図書館において、ベトナム語で書かれた先行研究の収集に努めた。収集したベトナム語の二次文献には、日本で入手困難なものが多数含まれており、アーカイブ史料と並んで貴重な研究資料をなす。 またオンライン開催ではあったが、研究成果の一部を国際学会において報告し、オーディエンスのベトナム人・フランス人研究者から多くの意見を得ることができた。これにより、研究成果を雑誌論文の形で公刊するための準備が飛躍的に進んだといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度にハノイの資料調査で得られた成果をもとにして、開港前後における茶里港とハイフォンの関係を、より具体的な位相で明らかにする。とくに、当時阮朝の地方官として茶里港の管理に深く関わっていた阮仲合(Nguyen Trong Hop)という人物に着目し、阮朝シュ本や文集に含まれる彼の上奏文を分析することで、開港が在来交易秩序に与えたインパクトを地方の視点から解明する。 開港場に設置された海関の問題については、仏越双方の行政文書に残された会計報告の分析を継続して進めるとともに、海関運営の過程で発生した仏越の紛争事例の検討を加速させる。これらに加え、海関で雇用されていたベトナム人キリスト教徒の実態解明にも注力する。この目的のため、フランスにあるパリ外国宣教会のアーカイブで一週間程度の史料調査を計画している。 また上記の検討作業で得られた成果をよりマクロな文脈に位置付けるため、比較史的な観点からの分析にも着手する。具体的には、日本・朝鮮・中国・シャムとの比較を通じて、ベトナム開港の歴史的な意義を、アジア経済史・グローバルヒストリーのなかで考察していく。 研究成果の公表としては、東南アジア学会ないし社会経済史学会の研究大会などを活用した学会での口頭発表、そして日本語ないしフランス語による査読付き雑誌論文の公刊を想定している。
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