2023 Fiscal Year Annual Research Report
植民地期朝鮮の非儒教的養子制度にみる「慣習」と「伝統」の植民地性
Project/Area Number |
22K20055
|
Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
田中 美彩都 東洋大学, 国際学部, 講師 (90965790)
|
Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
Keywords | 朝鮮 / 養子 / 家族 / 儒教 / 戸籍 |
Outline of Annual Research Achievements |
高麗時代(918-1392)から朝鮮時代(1392-1910)への変遷のなかで、朝鮮の家族制度は双系制から父系制へと変化したといわれる。儒教を国是とした朝鮮王朝は家族制度の儒教化に努め、養子に関しても儒教祭祀を摂行する資格をもつ同姓同本の男子のみを認めた。この立後とよばれる方式は、朝鮮後期以降、士族を中心に広く行われるようになった。しかし、昨年度に分析した20世紀初に統監府(1905-1910)が実施した慣習調査の記録を通じては、当時の朝鮮で、儒教祭祀を摂行する資格をもたない異姓の養子に祭祀を摂行させたり、そもそも儒教祭祀の摂行を目的とせずに養子を迎えたりするなど、養子慣行において儒教一辺倒ではない“多様性”がみられることを把握した。 本年度は、この分析結果に基づき、“多様”な養子縁組がたどったその後の過程を、植民地期(1910-1945)まで射程に入れ考察した。その結果、以下の三点を明らかにした。①慣習調査と同時期に実施された民籍法の施行過程で、統監府は、慣習調査の結果では例外と把握された異姓養子縁組をそのまま民籍に登録する方針をとったほか、当事者が養子縁組と認識していない関係性を民籍担当者の判断で異姓養子縁組として登録するなど、場当たり的な対応をみせた。②民籍に登録されたこれらの異姓養子縁組は、植民地化以降、裁判や家族法・宗教政策の立法・施行の場で問題視され、当局がみとめたはずの養子縁組であっても取消を余儀なくされたり、これまでの朝鮮の慣行に基づく養子の選定方法に制限が課されたりした。③この過程を経て朝鮮の養子は『慣習調査報告書』の記述通りに同姓同本に限るという認識が社会に形成されていくが、この認識の強化は植民地支配から開放された後の韓国の家族史研究にも一部影響を与えた。 上記の成果について日韓の学会で報告したのちに論文を執筆し、専門誌に投稿した。
|