2022 Fiscal Year Research-status Report
環境的要因と人為的要因との双方向検討による村落景観変遷史の研究
Project/Area Number |
22K20064
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
土山 祐之 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, プロジェクト研究員 (00963216)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 景観変遷 / 村落 / 環境 / フィールドワーク / 水利灌漑 / 古気候データ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にフィールドワークと文献調査とを並行して行った。 フィールドワークでは、小城市内の6つの集落において聞き取り調査を実施した。その結果、いずれの集落においても慢性的な水不足が問題で、近年の導水事業によって水不足も解消されるようになってきたが、導水事業以前では生産活動に多大な影響を与える水不足が度々発生していたことが判明した。一方で、水不足の程度については各集落によって区々であった。これは各集落の置かれている地理的環境や水利灌漑機能(取水方法や水使用慣行など)に影響されているものと考えられ、景観変遷の経過を考察する上で重要な情報となる。また、かつての慣行や習俗などを聞き取ることもでき、集落同士の関係性の構築に、神社の氏子圏や同一水系(同じ用水路)を使用しているか否かといったことが非常に重要であることが判明した。さらに、本年度は土地改良区でも聞き取り調査を実施し、現行用水路の状況や導水事業の影響などについて理解を深めている。 なお、こうした聞き取り情報や水利灌漑についてのデータは、すべて電子データとして蓄積・保存しており、今後の公開に向けてデータを整理している段階である。 一方、文献調査では「小城藩日記」から災害や生産状況を示すデータを抜き出す作業を実施し、古気候データを用いて生産状況と自然環境(特に気候)との相互関係について検討している。小城藩ではしばしば洪水や旱魃が発生しているが、それらの記事と古気候データとは相関関係にあることが確認でき、古気候データを用いて当該地域の気候状況を説明できる可能性が生じている。この点については未だ予測の範囲を出ていないので、来年度の課題として残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題ではフィールドワークの実施と文献調査とが主な作業となる。 フィールドワークに関して言えば、2022年度は12月と3月に聞き取り調査を実施した。この2回の調査では複数の集落で聞き取りを実施でき、多くの情報を得ることができ、かつ今後の調査に繋がる情報も得られたため、調査は順調に進展していると評価できる。 一方、文献調査については「小城藩日記」データベース等を使用し、災害や生産に関する史料の抽出を実施してきたが、「小城藩日記」のみでは生産量の多少や生産耕地の増減を把握することが難しい(残存史料が少ない)ということが今年度の調査から判明した。そのため、やや作業が遅れている感は否めないが、『佐賀県史料集成』などから生産に関する史料を集めつつあり、現在はそれを検証する段階にある。そのため、こちらも順調に実施していると評価できる。 加えて、抽出した史料と古気候データとを付き合わせた検討も今年度は実施した。「小城藩日記」に残されている史料に偏りがあるため、景観変遷に関しては直接的な関係性は認められなかったが、災害記事と古気候データが相関関係にあることは確認できたため、小城においても古気候データを活用できることが判明している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究推進方策は、継続したフィールドワークの実施と文献調査(含、古気候データとの付き合わせ)、ならびに最終年度になるのでそれらをまとめた総合的な知見からのまとめを実施していく。加えて、フィールドワークで得られた成果を電子データ化し、国立歴史民俗博物館の情報システムであるKhirinを活用して、調査データの研究資源・社会資源化を図る。 具体的にはフィールドワークについては、9月までに2度実施し、情報を収集する。また、文献調査についても同時期あたりを目処に古気候データとの突き合わせを完了する。その後、調査報告書の執筆にうつる。なお、報告書の執筆や調査データの電子データ化及びその公開については、個人情報や差別等の問題が生じてくる。その点に関しては「大学共同利用機関法人人間文化研究機構における研究活動に係る行動規範」を遵守した上で、所属機関(歴博)の知的財産担当者及び調査受け入れ先の責任者と慎重に協議し、細心の注意を払っていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で予定していた回数の調査が実施できなかったため次年度使用額が発生した。 次年度は引き続きフィールドワークと文献調査を実施し、そこで得られたデータを総合資料学情報基盤システムに格納していく。そのため、助成金はフィールドワークに必要となる旅費、データを分析し格納するために必要な物品費などに使用する。
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