2022 Fiscal Year Research-status Report
日本近世における民衆の知識形成・継承・共有の特質に関する研究
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22K20065
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
工藤 航平 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30599551)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 蔵書 / 知識形成 / 編纂 / 書物 / 古書流通 / 蔵書印 / 村役人 / 商人 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2022年度は、調査先での新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策等のため、予定していた調査を充分に行うことができなかった。 そのなかで、計画していた調査の一部とともに、新たに情報を得た史料群の調査を行い、以下の点で研究を進めることができた。①加賀藩十村岡部家文書(石川県宝達志水町)の史料調査と分析、②松坂商人小津家文書(東京都中央区、三重県松阪市)の概要および文献調査、③大阪府泉大津市立図書館所蔵朴斎文庫(大阪府泉大津市)の史料整理と分析を行った。 ①では、十村を務める家での文化資本としての文書・蔵書の認識や取り扱いを明らかにできる史料を中心に調査を行い、史料の解読と分析を行った。この成果の一部は学術論文として公表した。 ②では、松坂の本店と江戸店で蓄積・継承された資料群の所在調査および概要調査を行い、次年度以降の研究に向けた基礎調査を行った。そのうち、江戸店の経営危機への松坂本店の対応について、ケンブリッジ大学アジア・中東学部日本学科と国立歴史民俗博物館との古文書勉強会(オンライン)でのテキストとして分析を行った。 ③では、近代に活躍した郷土の文化人である近藤朴斎の文庫(近世の版本・写本が中心)について、泉大津市教育委員会と協力し、史料目録の整備と全体像の把握、蔵書印や書き込みをもとに旧蔵者や古書流通の調査を行った。近代から戦後直後を生きた人物であるが、個人の学問的傾向・文化的趣向と蔵書構築との関係、近代初期における古書流通の実態等がわかる書籍群であり、個人の知識形成と蔵書との関係を明らかにできるものとして調査を実施した。調査途中であるが、成果は史料所蔵機関での市民講座において報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査先での新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策のため、予定していた史料調査のいくつかを延期せざるを得なかった。本研究課題では、多様な立場性を有する人々の知識形成の分析を目的とし、新たな史料群の調査を基盤とする。そのため、調査が実施できないことは、研究課題の進捗の遅れとなってしまった。 一方、調査を実施できた史料について分析を行うとともに、史料目録や自治体史・研究書など文献調査や研究会での交流を進めることで、新たな資料群の発見へと繋げることができた。また、史料調査を実施できなかった調査先においても、関係者との打ち合わせを行い、次年度に迅速に効果的な調査を行えるように準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2023年度は、新型コロナウイルスの感染収束状況を見ながら北陸・東海地方ほか遠方の所蔵機関への調査を行う。 当初より計画していた伊勢商人川喜田家文書の編纂物・蔵書目録の調査を行い、商家や商業組合における知識形成や独自の論理構成、その共有・継承システムの解明を進める。また、加賀藩十村の編纂物・蔵書の面的な把握や、共通して所持する編纂物の分析を行うことで、身分集団での知識共有の実態を明らかにする。さらに、さまざまな階層・職種の人々の史料の把握・調査を行う。、 研究成果については、学術論文や学会発表を通じて公表していく。
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Causes of Carryover |
2022年度は新型コロナウイルス感染症流行の影響により、当初計画していた調査を実施することができなかったため、調査旅費の支出が滞ることとなった。2023年度では本年度計画している調査とともに、2022年度に計画して出来なかった調査を実施する。
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