2022 Fiscal Year Research-status Report
千葉県と茨城県における安産祈願と動物供養の民俗学的研究:犬供養・猫供養に着目して
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22K20084
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
渡瀬 綾乃 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (10967376)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 民俗学 / 地域社会 / 祭祀 / 民俗信仰 / 動物供養 / 犬供養 / 猫供養 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当初予定していた千葉県・茨城県に関する文献資料の収集と予備調査を進めた。文献調査のなかで、猫の供養はザカマタを用いた動物供養習俗のある東北地方でも存在しているが、それは愛猫や逸話のある猫の供養であり、同じ猫供養であっても、千葉県・茨城県では産育に関する信仰が伴う傾向であるという特徴を再確認した。また、過去に犬供養・猫供養を調査した研究者から複数の情報提供をいただき、過去の民俗調査と現在の自身の民俗調査を補完する資料を得ることができた。 予備調査では、当初より重点調査地と目していた常陸大宮市を中心に調査を行った。調査においては、ザカマタを奉納する地蔵堂を中心に行い、講集団による犬供養・猫供養がなくなった後も、個人によるザカマタの奉納を見ることができた。また、講解散後も地蔵堂を管理する集落の地蔵盆は継続されていることも確認した。同市内では犬供養・猫供養とは別に同族祭祀の神仏に同族内の女性の安産と子供の育成を祈願する習俗も調査し、同族祭祀と産育祈願が合わさった習俗の調査ができた。 さらに犬と産育に関わる信仰で著名なつくばみらい市の板橋不動尊では、女人講の参詣している様子が描かれた絵馬が多数奉納されていることを踏まえて、ザカマタ以外での、女人による産育祈願の奉納物へも視野を広げた。千葉県の絵馬調査報告書によると、産育祈願の絵馬が仁王像に奉納されている例があり、地蔵尊、不動尊、仁王といった幅広い対象があることを把握した。 今後の課題は、継続した文献調査と今年度得られた知見の整理、犬供養・猫供養を動物供養研究史上の位置づけとともに、寺社信仰との連関性を明らかにする作業を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度調査では、文献調査のなかで既存研究史を改めて振り返り、さらに他の研究者からの情報提供によって、計画時の調査地選定の有効性を確認することができた。 また、犬供養と猫供養だけでなく産育にかかわる習俗に視野を広げたことで、同族祭祀との連関性を見出した。また、講集団による祭祀が解散した後の追跡調査によって、女人講による祭祀がなくとも、ツボといわれる近隣住民の集まりでの祭祀が継続されていることを確認し、あわせて個人祭祀での断続的なザカマタ奉納を調査することができた。地域での民俗行事の減少が加速しているなかで、講集団解散後の変遷を捉えた大きい成果である。 本研究の研究をすすめたことで、以上のように犬供養と猫供養を多角的に考究する意義を見出すことができたことから、当初の計画通りの研究がおおむね順調に進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、新型コロナウイルス感染症対策が緩和しつつあることから、調査地範囲を拡大し、仮説の検証を多角的視座から行っていく。ただし、現地での実見、聞き書き調査や文献調査はまだ不十分なため、広域な分布調査と重点調査、そして文献調査を進めることで千葉県と茨城県の犬供養・猫供養の研究の希薄さを解消していく。また、令和4年度の調査でえられた講集団解散後の習俗や同族祭祀との連関性についても意識することで、犬供養・猫供養の研究を動物供養だけに留まらない成果を示し、今後の民俗学における犬供養・猫供養研究に資するものとしたい。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、新型コロナウイルス感染症流行に配慮して、調査地を絞ったため調査を当初の予定通りに実施できなかった。そのため、これに付随する経費にも変更が生じた。ただし、文献調査や研究者への情報提供の依頼をしたことで、研究は遅延することはなかった。今後は、新型コロナウイルス感染症対策緩和を受けて、調査時点の感染対策を勘案しながら実施する予定である。
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